シンデレラ養成所の卒業後…
「そんなわけないでしょ!!」
とはいえ、私も気付けば30代。
私を迎えに来てくれる白馬の王子さまも
きっともう30代にはなっているんだろう。
このまま何もしなければ、売れ残って寂しい老後に……。
「シンデレラ養成所へ行こう!!」
誰に脅迫されたわけでもないけれど、
私はシンデレラ養成所に向かった。
「シンデレラ養成所へようこそ。
筆記と実地講習をクリアすると
晴れてシンデレラとして認められます」
どんな花嫁修業をさせられるのかとドキドキしたが、
筆記試験では電話番号の記憶ばかりだった。
「あの……これシンデレラと関係あるんです?
シンデレラってもっとこう……雑用とかじゃ……」
「これが実地講習でも生かされるんですよ。
大事なのは人脈です」
「はあ……」
イメージしていたシンデレラ講習とは違ったが、
卒業さえすればシンデレラになれる以上頑張るしかない。
筆記試験をなんとかパスして実地試験。
そこでは、教官の求めるものをすぐに用意するだけだった。
「ジュース」
「はい!」
「靴」
「はい!」
「乗り物」
「これ絶対関係ないでしょ!!!」
シンデレラって掃除とかじゃないの!?
いじわるお姉さまもここまでやらないよ!?
教官への文句はとめどなく思いついたけど、
私は晴れてシンデレラ養成所を卒業した。
「大変なのは卒業後ですから。
これまでの経験を生かして頑張ってください」
「学んだ気がしませんけど……」
もらったシンデレラ免許は、
変なコーティングがかかってつるつるしていた。
卒業した日の夜に、いきなり魔女がやってきた。
しかもめっちゃ嫌そうな顔で。
「ああ、シンデレラね……いいわねあんたは」
「あなたが魔女……!?
それじゃかぼちゃの馬車とドレスを用意して!」
「はいはい」
魔女はしばらくして、ドレスとかぼちゃの馬車を用意した。
お姉さまにいじめられる部分は全カットで、
いきなりシンデレラのおいしい部分だけ味わえるなんて!
「馬車の行き先は舞踏会だから」
「ガラスの靴は?」
「はいはい」
魔女はガラスの靴を取り出した。
「それじゃ行ってきます。
必ずいい男を見つけてきますわ」
「くれぐれも……」
「12時には魔法が溶けるって話でしょ?
わかってる。ちゃんとシナリオ通り動くわ」
馬車が走り出し、向かうはきらびやかな舞踏会。
― ゴーン。ゴーーン。
舞踏会で誰とも踊れずにはや12時。
みんなイケメンだけど、私の王子としては決め手に欠く。
「ま、ガラスの靴落としておけばいっか」
用意していた予備も含めて靴を何足か置いて帰ると、
数日後に靴を持った王子候補が訪ねてきた。
「シンデレラ! 私と結婚してください!」
「シンデレラは俺のもんだ。だろ?」
「僕と……結婚してくれますか?」
「うーーん……」
タイプの違う様々な王子。
いっそ重婚でもできればいいけど、
この中から一人を決めるなんて……。
「誰とも結婚しない!」
ガラスの靴を回収してまた舞踏会に行けばいい。
私はすでにシンデレラなんだから、
本当にぴったり当てはまる王子を探せばいいじゃない。
ここで焦って妥協結婚する必要なんてない。
翌日の夜。
舞踏会の準備を整えていると、ふたたび魔女がやってきた。
「ガラスの靴に馬車、ドレスを返してもらえる?
それ、レンタルの奴だから」
「えっ? でも私、これから舞踏会に……」
「あなたがシンデレラだったのは昨日までよ。
ほら、あなたのシンデレラ免許を見てみなさい」
シンデレラ免許は表面のコーティングがはがれ、
"魔女免許"の文字が浮かび上がってきた。
「これからはあんたも
シンデレラになった人のところに行って
その人の願いをかなえる"魔女"になるのよ」
「えええええ!?」
※ ※ ※
シンデレラになった女が浮かれていると、
魔女がやる気なくやってきた。
「ああ、魔女さん。馬車とドレスとガラスの靴と、
美容室とネイルサロンを用意してくれる?」
「はいはい」
「あと、完璧なメイクができるメイクさん。
それに舞踏会の前にはエステサロンも行きたいわ」
「わかりました」
魔女は教習所で培った人脈をフル動員して、
まるで魔法のようにシンデレラの願いをかなえた。
作品名:シンデレラ養成所の卒業後… 作家名:かなりえずき