さようならブログさん
いいかげん仕事を進めろよ!」
「でも頻繁に更新しないとアクセス数が……」
「どうせ自分のランチとか風景を
アップするだけなら仕事するほうが大事だろ!」
「そんなことありません!
私のブログを見ている1000人の人は
私の一挙一動を楽しみにしているんです!」
どうしてわかってくれないの。
はためには仕事をさぼっているように見えても、
これは私の人生にとって大事なこと。
お金をかせぐためだけの仕事よりも
ずっと優先度が高いことなのに。
あ、これブログのネタにいいかも。
「また更新しやがって!
これ以上勤務中にブログするならクビだ!」
「えええええ!?」
上司とのいざこざの後、ブログを辞めないといけなくなった。
私の人生における重要度でいえば
ブログの方がはるかに大事だけど、
お金がなければそもそも生きてはいけない。
自分の中でしっかり"けじめ"をつけるために、
ブログの告別式をしめやかに行った。
弔辞
ブログさん。4年お世話になりました。
いつも更新して帰ってくる返事が楽しみになり
いつしかブログ更新が私の生活の中心になっていました。
あなたと過ごした日々はけして忘れません。
そして、これからは普通の人として生きていきます。
告別式が終わると、ブログは完全に閉鎖された。
これで私も売れっ子ブロガーから普通の人に戻るんだ。
告別式から数日後が経った。
「あっ、いい風景! ブログに載せよっと」
つい、以前のクセでシャッターを切る。
もう写真を載せる場所もないというのに。
「そっか……もうないんだった……」
告別式を行ってからというもの、
なにを見ても感動が半減してしまう日々だった。
共有の場であるブログが失われたことで
"みんなにも見て感動してもらおう!"の感動を味わうことがなくなったから。
こんな灰色にかすんだ日常、生きている意味あるの?
「……そうだ! SNSをはじめよう!」
私は新たにSNSで"自分"をアップし始めた。
感じたことを書き、写真をアップする。
「これ、これよ。やっぱり私にはこれがいるんだ!」
書き終わった後にコメントが付く期待感。
これが私の人生を豊かにしてくれていると確信した。
けれど、いくら待ってもコメントは来なかった。
更新頻度を上げても、ブログのような活気は出ない。
「どうして!? どうして誰も見てくれないの!?
こんなに"私"を発信してるのに!
私を見て! もっと私で感動してよ! 寂しいじゃない!」
他のSNSもはじめて宣伝もしたのに効果はなかった。
ほかの有名人に人を取られてしまう。
コメントが帰ってくるとあんなにも嬉しいのに、
来ないことがこんなにも辛いなんて思いもしなかった。
「おい! また仕事中に遊んでるんじゃない!
ブログはやめたんだろう? 仕事を……」
「うるさい!!!」
こんな状況で仕事なんてしてられない。
もっと更新するために今は時間が惜しい。
弔辞
仕事さん、3年お世話になりました。
お金の大事さを気付くきっかけをくれてありがとう。
でも今はSNSに忙しいのでお別れです。さようなら。
弔辞
人間関係さん、20年お世話になりました。
友達や家族をはじめとする人間関係には楽しませて
ときに怒ったりすることもあったけどいい思い出でした。
でも今はSNSに忙しいのでお別れです。さようなら。
弔辞
外の世界さん、24年お世話になりました。
家の外に出ることで私の世界は広がりました。
でも、今は外の世界に出ることよりも
もっと集中して取り組むことができたのでお別れです。
仕事、人間関係、外の世界の告別式を行い
ほかにもSNSに集中するために告別式を行った。
ありとあらゆる邪魔と告別して、
24時間フルにSNSに取り組めるようになった。
「これで今まで以上に更新できるし、
きっとクォリティも前以上にこだわれるわ!
間違いなく人気になれる!」
時間はたっぷりある。
さっそくSNSに投稿しようとページを開いた。
「……でも、なにを書こう」
家に閉じこもるしかない日常に
もはや書くためのネタなんて残っていなかった。
作品名:さようならブログさん 作家名:かなりえずき