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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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夢の調律師が壊れてる

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「また悪夢を見たんです!
 幽霊に散々追い回されて最後には車にはねられて……!」

「はいはい、調律師にお任せください」

やってきた客の頭を開いて、
夢を作る部分の調律を確認するとやっぱり壊れていた。

「ああ、ここですね。
 ここの夢調律が狂っているから
 毎晩毎晩、悪夢ばかり見てしまうんですよ」

「ああ、そうなんですか。治せそうですか?」

「そのための夢調律師ですから」

正しく夢を配合できるように調律をただす。
人間の夢を作る部分は極めて繊細で、
これまでの記憶をもとに作られているはずの夢でも
調律がわずかでも狂ってしまえば悪夢が生み出される。

「はい、終わりました」

「ありがとうございます」

調律が終わった客は支払いを終えると嬉しそうに帰って行った。






「また悪夢を見たんです!!」

「えええ!?」

そして、客はまた翌日もやってきた。

「おかしいな、ちゃんと調律は直したはずなのに……」

「もう嫌ですよ。
 バカでかいクモに襲われて蛇に絞殺されたんです。
 最悪の目覚めですよ。これじゃ仕事も手につかない」

仕事……。

「なにか仕事で嫌なことでもありました?」
「いいえ」

「恋人にフラれたとかショックなことは?」
「いいえ」

「頭に強い衝撃を受けたとか……」
「ないですよ!」

調律師も原因がわからないまま、調律作業に移る。
夢調律はしっかり壊れていた。

「昨日は間違いなく直したっていうのに、
 また調律が狂うなんてことがあるのか……」

夢調律はそう簡単に狂ったりはしない。
念のため、もう一度一から調律をし直して
今度は調律漏れがないように念入りに音色をチェックした。

「うん、間違いない。
 この調律ならどの記憶をベースにしても
 悪夢を奏でるようなことはない」

「ありがとうございます」

客は今度こそ安心して帰った。
それを見て調律師はほっと一息ついたが、それも翌日まで。


「また悪夢です!!」

「しつこいよ!!」

客は再び調律に訪れた。
しかも昨日ちゃんと直したところの調律が狂っていた。

昨日の調律は完璧だったことから考えて、
狂った原因は調律後にしか考えられない。

「調律は再び治しました。
 ですが、原因がわからないとまた狂ってしまいます。
 原因を調査させてもらってもいいですか?」

「お願いします!」

調律師は、調律の狂い具合を見て原因を逆算する。

普段は時間がかかる作業なのでやらないけれど、
原因がわからなければこの客はまた訪れるに違いない。

「……なるほど」

「わかりましたか!? なにが原因ですか!?」

「原因はお金です。心当たりは?」

「いえ……」

妥当だろう。
たいてい、原因というのは本人に自覚はない。

「あなた、最近たくさんお金を使っているでしょう?
 それが調律を乱している原因なんですよ」

「そうなんですか……」

「対価以上の値段をふっかけられて、
 それを泣く泣く支払うことでストレスを感じ調律を乱しています」

「……あの、それじゃどうすれば?」

「簡単な話です。
 あなたの調律を乱すぼったくりに注意してください。
 そんなゲスい商売する人はろくでもない人です。
 あなたの調律を乱すような人に、従う必要なんてないんですよ」

「はい、わかりました!!」

調律も直したし、原因への対処法もわかった。
これでこの客はもう訪れることはないだろう。



「では、代金ですが昨日と同じ1000万円を……」