世界が変わるとき
「イーッ!」
「イーッ!」
「ゲーソッ! ゲソゲソッ! ゲーソッ! ゲソゲソッ!」
幼稚園バスは走る。泣き叫ぶガキどもを乗せて。
幼稚園バスは走る。俺たちの夢を乗せて。
幼稚園バスは走る。……、あれぇ?
「ゲソ魔神様ぁ」
「なんだ? 戦闘員4649号」
「私たちは、どこに向かっているんですか?」
「あぁ? んなもん、決めてねーよ。明日に向かって走ってるんだよ」
「えぇっ? 決まってないんですか? モタモタしてたら、お面ライダーが来ちゃいますよ」
「そんなもん、俺が、返り討ちにしてやらぁ」
「みんなそう言って、負けてるんですよ」
「あぁっ? グダグダ言ってんじゃねーぞ! 戦闘員の分際で!」
俺は、ゲソ魔神の側に居づらくなったので、一番後ろの席で、後方を見張っていた戦闘員4989号のところに行った。
「なぁ、俺たちの目標は世界征服だよな」
「ああ、そうだな」
奴は、視線では後方の見張りを怠らずに答えた。
「じゃあ、なんで、幼稚園バスを襲ってるんだ?」
奴は、視線では後方の見張りを怠らなかったが、少し沈黙した。
「物事には順序というものがある。そして、大きなことを成す為には、ステップを踏む必要がある」
「……、風が吹いても、桶屋は儲からんぞ」
「冷静になるな。……いや、冷静になれ」
奴は、チラリと俺を見て続けた。
「つまりだな、人質を取るという行為は、殺人の次に、罪の重い行為で、……」
「じゃあ、人を殺せば、いいんじゃないのか?」
「え?」
「いや、殺人の方が罪が重いんだったら、殺人をしたらいいんじゃないのか?」
「う……い……いや、あ、あのな」
そのとき、
「や、奴だ!」
戦闘員戦闘員4989号が鋭く叫んだ。
「はい、お面ライダー入りますー」
「はい、お面ライダー入りますー」
戦闘員たちが口々に言った。
「ゲーソッ! ゲソゲソッ! お面ライダーなんざ、軽―くひねって、俺様、ダークヒーローだぜー!」
「世界変えちゃうぜー!」
「世界変えちゃうぜー!」
「世界変えちゃうぜー!」
口々に言いながら、ゲソ魔神と戦闘員たちがバスから降りていく。
本当に、今、世界は変わろうとしているのだろうか。