ドッペル達のホームカミング
世界に散らばる自分のドッペルゲンガーが集まる。
ドッペルゲンガー・ホームカミング開始。
「すべての俺、注目！
まずは今年の「俺」の成果を発表する！」
ネットで集計される「人間ランキング」。
年収・総資産・地位を総合的に判断し算出される。
「今年の「俺」は１１位だった！
去年は１０位だったのに下がっているじゃないか！」
オリジナルはドッペルゲンガー達を叱咤する。
でも、あくまで向けているのは一部のドッペルゲンガー。
「例年通り、優秀な成果を収めたドッペルゲンガーは
無能なドッペルゲンガーとすり替わって
人間ランキング向上に努めてくれ」
人間ランキングが上がらないのは、
無能なドッペルが優秀なドッペルの成果を食いつぶし
結果として足を引っ張るために起きてしまう。
「では、無能ドッペルたちはこれから講習を行う」
優秀なドッペルゲンガーは無能とすり替わり、
無能なドッペルゲンガーは講習を受けて優秀な奴のふりをする。
講習室に集められたドッペルゲンガーは、
みんな同じ顔のくせに優秀な奴と比べて知性が感じない。
「講習なんてめんどくせーなー」
「受けた後は優秀な奴と代わるんだろう？」
「俺、社長なんてやだなーー」
「静かに！！」
オリジナルはドッペル達を黙らせた。
「いいか、同じ才能、同じ顔、同じ身体なのに
お前らのせいで俺の人間ランキングが全然上がらない。
だから今日はみっちり講習を受けてもらうからな！」
「「「 ええぇーー…… 」」」
「ええーー、じゃない！！」
ぶつくさ文句を言うドッペルを無視して、
オリジナルは講習を始める。
帝王学、経済学、経営学……などなど。
人間ランキングをさらに上げるための授業を叩き込んだ。
けれど、さすがは無能ドッペルの集団。
真面目に聞いていたのは最初に行われた「ハッキング講習」ぐらいだった。
「……心配だ」
「大丈夫だよオリジナル」
「そうそう、なんやかんやうまくいくって」
「無能な奴ほど、無駄にポジティブなんだよな……」
不安なのでオリジナルは講習の最後に抜き打ちテストを行った。
「なんじゃこりゃああ！！」
結果は散々で、全員がハッキング関連の問題だけは満点。
それ以外の帝王学や経営学などは完全な０点ばかりだった。
講習をやり直すことも考えたが、
いっそさっさと社会に解き放った方がいいいかもしれない。
優秀なドッペルが作ってくれた地位は、ほぼ会社のトップ。
イスにふんぞり返って昼寝でもしていれば給料は入る。
中途半端な知識をやって、下手に口を出させてはまずい。
「……それじゃ講習は終了だ。
みんな、ちゃんと「俺」として人間ランキング向上に努め……」
「ひゃっほー！ 自由だあ！！」
「……心配だ」
ホームカミング終了後、
オリジナルはその後の働きをしっかりチェックした。
淡い期待をしていた自分がバカだった。
無能なドッペルたちはまるで仕事をせず、
毎日どこからふらふら出かけていた。
会社はつぶれ、総合年収はダダ下がり、地位は失墜。
けれど、こいつらを集めて講習するにはあと１年。
「こうなったら、俺だけでも頑張ってランキングを上げるしかない！！」
オリジナルは手段を選ばずに年収・地位・総資産向上にまい進した。
そうこうしているうちに、１年が過ぎた。
ドッペルゲンガー・ホームカミング開始。
再びすべてのドッペルゲンガーが集められた。
「今年の人間ランキングを発表する前に発表をする。
今年から毎回、成果が最下位の「俺」には死んでもらうことにした。
足を引っ張って人間ランキングを下げられたくないからな」
オリジナルは無能ドッペルがいる方向をにらみつけた。
お前らのことを言ってるんだよ、害虫め。
「では、今年の人間ランキングを発表する。
今年の人間ランキングは……」
「１位！ ……え？ １位！？」
オリジナルは自分で発表した数字を何度も見返した。
何度集計し直しても間違いなく今年の人間ランキングは１位だった。
「なんでだ！？ 会社もつぶれて年収は下がったし
借金で総資産もなくなって……地位だって……」
「オリジナル、知らないんですか？
今年から人間ランキングは年収・総資産・地位ではなく、
優しさ・思いやり・友達の数、で決まるようになったんです」
「そんな急に変わるわけ……あっ！」
オリジナルは無能ドッペルたちが
ハッキング講習にだけちゃんと参加していたのを思い出した。
「そうか！ お前たちが集計基準を変えたのか！
よくやった！ お前らの非生産的でくだらない日常でも
人間ランキングの向上につながるようにしてくれたんだな！！」
さすがは俺のドッペルゲンガー。
本気を出せば優秀な奴と素材はそう変わらない。
「それで、ランキング最下位は誰なんです？」
「ああ、そうだったな。
今年のランキングに一番貢献しなかった
最高に無能でどうしようもないクズ野郎は……」
最下位： オリジナル
作品名：ドッペル達のホームカミング 作家名：かなりえずき