不透明人間は見られたくない
「ああ、俺はどうしてこういつもいつもばれるんだ」
特別ルックスがいいわけでもなければ、
これといってスタイルがいいわけでもない。
それなのに、不透明人間はいつどこにいても
誰かに見られている。
それが不透明人間であるがために。
「ちくしょう! 見るな! 俺を見るなぁ!」
そう叫んでもかえって注目を浴びるだけで、
不透明人間は人目が怖くなっていた。
「やれやれ……俺が普通でいられるのはネットだけだ」
ネットの世界であれば、顔も素性も隠せる。
不透明人間の生活はどんどんネットへと切り替わっていった。
引きこもり生活が長くなると、
不透明人間はやっぱり外の空気が恋しくなった。
「これじゃ囚人と同じじゃないか!!」
アイドル以上に覆面して外に出ることに。
「あ、不透明人間だ」
「ほんとだ不透明人間だ」
「ああ、不透明人間か」
顔の大部分は隠れているはずなのに、
不透明人間にはそんなことは関係ない。
どこにいてもなにをしていても必ず発見される。
人目に晒されたくない。
でも外には出たい。
そんなせめぎあいのすえに、不透明人間は無人島にやってきた。
「わははは! これなら外に居ながらにして人目にさらされることはない!」
不透明人間は便利さを完全に捨てて、
自分だけの生活を手に入れることができた。
と、本人だけは思っていた。
『見てください! 不透明人間です!』
『晴れた日はここからでも不透明人間が見えるんですよ』
「うあああ! 見るなぁぁ!」
無人島に移り住んでも、人はあっさり不透明人間を見つけてしまう。
道路を移していたヘリから。
無人島が見える旅館の窓から。
探すつもりはないのに、無意識のうちに視界に不透明人間をとらえる。
それがさらに不透明人間のストレスになっていった。
「もう……ダメだ……」
不透明人間は度重なるストレスと、
無人島のかたよった生活でついに倒れてしまった。
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「目が覚めましたか?」
目を開けると病院だった。
看護師も全員が意識せず不透明人間を見ている。
「あなた不透明人間でよかったですね。
みんなに見られているから、倒れてもすぐ救急が来れました。
普通の人じゃそのまま忘れ去られてしまいますよ」
「だとしても、こんな体はいりません。
俺は普通に生きていたいだけなのに……」
不透明人間は体が弱っているのもあり、
医者にどうしようもないことを愚痴った。
「……この不透明人間をなくす特効薬とかないんですか?」
「あるわけないでしょ」
ばっさり。
医者はわずかの希望も与えずに即答した。
「……ただ、方法はあります。
不透明人間を消すんじゃなくて、普通の人間に化けるんです」
「え?」
「誰か別の人に体をそっくり似せるんですよ」
「なるほど! そうすれば注目を浴びずにすむぞ!」
不透明人間は病院の力をかりて、
さっそく体を別の人にそっくり似せた。
すると、それまで自然とこちらに視線を注いでいたはずの看護師たちが
ふいに視線を外すようになった。
「おおおおお!! すげぇ! やったぁ!!」
不透明人間は喜んで帰って行った。
その数日後、不透明人間がふたたび病院に担ぎ込まれた。
前回とまるで同じ病状だったことに医者は驚いた。
「いったいどうして?
不透明の呪いはなくなったはずなのに!」
「俺も原因がわかりません……。
でも、どこにいても必ず見られるんですよ……」
医者はふと、不透明人間の持っているケータイが目に入った。
『9/20 7:48 ●▲駅につきましたーいい天気!』
『9/20 7:50 朝ごはんは××定食屋さんでーーす』
『9/20 7:54 お休みの朝はやっぱり散歩!』
『9/20 8:00 道に猫がいました! かわいい!』
SNSにはどうでもいい不透明人間自身の情報が
詳しい位置情報とともにップされ続けていた。
「あの……これは……」
「見られたくはないけど、
誰かに自分を認めてほしいじゃないですか」
医者は不透明人間に「いいわけないね」ボタンを押してやった。
作品名:不透明人間は見られたくない 作家名:かなりえずき