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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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開けるなよ!絶対開けるなよ!

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兄弟たちは金庫の前に集まっていた。

「この金庫の中に親父の残した遺産が……」

「何言ってるんだ。こんな金庫で収まるわけないだろう」

兄弟たちの前にある金庫は小さな冷蔵庫サイズ。
父親の残した莫大な財産はこの程度の金庫に収まるわけがない。

「私、聞いたわ。
 お父さんは遺産相続人にだけ開け方を伝えるって」

兄弟たちは顔を見合わせた。
でも、誰も表情を変えない。

「お前ら、金庫の開け方を知らんぷりして
 俺たちがいなくなってから開けて独り占めしようってわけか?」

「そんなわけないでしょ! 本当に知らないのよ!」

「それに、親父の遺言だって証拠もないしな。
 この金庫の中に相続人が書かれた遺書も入っているかもしれない」

試しに、父親が思いつきそうな数字で
適当にダイヤルを回したりしてみるがびくともしない。

「……開かないな」

「親父は用心深かったからな。
 パスワードも使いまわしはしないし
 パソコンは2重にウイルスソフト入れていたし」

「家の鍵も2つにしていたわよね。
 ドアも防犯のために2つししていたし……ちょっと異常よ」

「歳をとるとおかしくなるんだろうな」

父親の用心深さは歳をとるごとにエスカレートし、
伝えるはずの遺言も用心深さから伝える前に他界してしまったんだろう。

「とにかく、強引にでもこの金庫を開けよう。
 親父の残した痕跡がなにかあるかもしれない」

「そうね」
「そうだな」

仲の悪かった兄弟がはじめて一致団結した。
けれど、その眼の奥には確かに金の色を帯びていた。


まもなく、金庫の業者がやってきた。

金庫をさまざまな器具でいじくりまわした結果、

「ごめんなさい、鍵つぶしちゃいました」

「「「 なにやってんの!? 」」」

金庫を破損するだけに終わった。


「この金庫、特注なうえにかなり頑丈にできています。
 あぶっても、叩いても、凍らせてもびくともしません。
 鍵穴も正しい方法じゃないと壊れる仕組みになってます」

「……さすが親父だ」

すでにこの世にはいない親父の用心深さの残痕に
兄弟たちは冷汗をかいた。

トイレのドアと、便座にすら鍵をかけて
2重ロックするくらいの性格だからここまでするのだろう。

「それじゃあどうするのよ!
 このまま遺産のありかはわからないで終わるの!?」

「そんな消化不良に終わるなんて嫌だ!」

「俺だって嫌だよ!」

兄弟たちは"自分こそ相続人"だと確信している。
ここで諦めてしまえば、なにもかも終わりだ。


「……ただ、手がないわけではないんです」

業者はぽつりとつぶやいた。


「この金庫は最も堅い鉱石オリハルコンで作られています。
 同じ鉱石で削れば、あるいは……」

「それだ!!」

このサイズの金庫を作れる資金力のある父親の遺産。
オリハルコンは超希少鉱石なので高価ではあるものの、
ここで用意しない手はない。

「用意したぞ!! オリハルコン・チェーンソーだ!」

大金をはたいて作成したチェーンソーを金庫に突き立てる。
激しい火花が飛び散り、ついに金庫が斬れていく。


「いいぞ!! これなら破れる!」


兄弟の資金力的にも、2つめのチェーンソーは用意できない。
ここで開けきれなければもうチャンスはない。

しかし、同じ鉱石で作られたチェーンソーの刃もどんどん削り落ちていく。

みるみる小さくなる刃に兄弟は不安感をつのらせる。

「お願い! 開いて!!」
「開いてくれ! 頼む!」

「いっけぇぇぇぇ!!」


バキン!


金庫が開いたのかチェーンソーが壊れたのか。
そのどちらもだった。

「開いたぞ!! 金庫が開いた!!」

金庫が開くと同時にチェーンソーは壊れた。
兄弟たちはいっせいに金庫の中に頭をつっこんだ。

中に入っていたのは……。


「金庫ぉ!?」

中には外の金庫とまったく同じ素材で作られた小さな金庫が入っていた。
それを見た兄弟たちは父親の性格を思い出した。


※ ※ ※

父親が亡くなる前日。

「ワシはあまりに莫大な金を持ってしまった……。
 この金を持っているのはあまりに危険すぎる……」

大金を持っていると知られれば、
当然強盗にも狙われるし息子たちにも危険が及ぶ。

用心深い父親は、そのことを心配していた。

「だから、ワシの全財産を使って
 世界一頑丈な金庫を作ってくれ。
 ワシの性格ならそんな金庫があっても不自然じゃない」

「そんなもの作ってどうするんですか。
 それじゃあ遺産も渡せませ……あっ」

おばあちゃんははっとした。

「そう、金庫を売るんじゃよ。
 遺産は金庫の形に残したと遺書に書いた……。
 この遺書だけは見つかってはいけない。

 誰にも見つからない場所に厳重に保管してくれ」


「わかりました」

おばあちゃんは2つ目の金庫の中に、
遺書をしっかり入れて鍵をかけた。