司会「告知があるんだよね?」
「麻衣ちゃんってどんなもの好きなの?」
「今度遊びにいかない? あ、麻衣ちゃんも誘って!」
私に言い寄る人は誰しも、私越しに麻衣の姿を見ている。
現役高校生女優にしてメンノ専属読者モデル。
まさに同年代のあこがれの存在で、
普通に生活していればまるで接点なんて持てやしない。
でも、私は麻衣と友達で、今もこうして一緒に帰っている。
「それでねー撮影が押しちゃって大変だったよぉ」
「麻衣、いつも忙しそうだもんね」
私たちが帰る姿をみんな見ている。
声をかけたいんだろうけど、
住む世界が違いすぎて気後れしているんだ。
「あっ、そろそろだ」
麻衣は時計を確認すると、
それまでの親しげな表情から仕事モードへ切り替える。
「来週に映画『ゼロの失格』が公開されるから。
映画の内容は学級崩壊を描いたヒューマンオムニバス……」
カンペをがん見しながら、
麻衣は事務的に読み上げていく。
読み終わると、申し訳なさそうな顔をする。
「……ごめんね。私がこの地位でいるためには
かかわる人間みんなに告知をしなくちゃいけないの」
「ううん。わかってる。大丈夫だから」
私の存在価値は麻衣への窓口役であり続けるしかない。
みんな私を頼ってくれるのも、麻衣との接点があるから。
もし、告知を聞かなくなれば、私なんて……。
「あ、それと新しい化粧品が出たの。
それに、さ来週から新しい主演ドラマも始まって……」
「そ、そうなんだ……」
がまんがまん。
告知を聞かなければ、私もこの立場を失う。
それから数日後、明らかに私を取り巻く環境が変わった。
「最低だよね、あんな人だと思わなかった」
「あんかもう幻滅って感じー」
「視界に入るだけで不愉快だもん、あの子」
「……誰の話?」
女子トイレで陰口を話しているようなので声をかける。
どうやら私のことではないらしいけど。
「麻衣よ、麻衣。知らないの?
こないだテレビで同級生はバカって言ったのよ」
「ホント信じられない。あの子私たちを見下してたのよ」
「あんたも、もう友達でいない方がいいよ」
その後ネットニュースで確認すると、
麻衣の失言がどこでも大きく取りざたされていた。
「麻衣!!」
学内で麻衣を探すと、すっかり落ち込んでいた。
「……大丈夫?」
「"同級生はバカ騒ぎするの楽しい"って言っていたのに……。
編集で悪口みたいになって……それで……」
はじめて告知を挟まずに、麻衣と話した。
「麻衣、告知はいいの?」
「もう私は女優でも読者モデルでもなくなったから。
スポンサーはどこもついてないから。
皮肉だよね、落ちぶれてからちゃんと話せた気がする」
私は麻衣にかける言葉なんてなかった。
同時に私の存在価値もなくなってしまったのを感じた。
その帰り、サングラスをかけた男がやってきた。
「ねぇ君。芸能界って興味ある?」
・
・
・
『現役高校生モデル!!』
『100年に1人の美少女!!』
『等身大の演技派女優!!!』
それまで聞いたことないような肩書が私についた。
「これからウチは君を人気者にしてあげよう。
その代わり、君はかかわる人すべてに告知をするんだ」
「はい、もちろんです!」
私の二つ返事にスポンサーは驚いた。
「意外だね、君みたいな若い子は普通しぶるんだけど」
「いいえ、全力で告知させてもらいます! 任せてください!」
「心強いね、ぜひ頼むよ。
ただし、うちが前にスポンサーになった
麻衣ちゃんには近づかないでね。彼女、イメージ悪いから」
「はい、わかりました」
予告通り人気者になった私はかかわる人すべてに告知をした。
「映画『素敵な高校生街道』、来週公開なんだっ!」
「プッキーの新しい味が出たんだ」
「私も使っている化粧品ぶだるさすーんの新しいものが……」
「「「 そ、そうなんだ…… 」」」
私の人気者オーラにあてられて寄ってくる人は、
苦い顔をしながらも告知を聞いていく。
でも、まだまだ足りない。
「あ、5分話したからCM流さないと!」
私はパッドを操作して、友達全員にCMを見せる。
すべてスポンサーの提供しているCM。
「それで、今度遊びいかない?」
「うん、いいよ。
それじゃあ場所は
私のスポンサーがやっている遊園地に行こうよ」
「う、うん……」
「そうそう! それでこの服なんだけど、
私のスポンサーが作っている最新のファッションで~~……」
まもなくスポンサーから連絡が来た。
「うちの商品がどんどん売れなくなってきている!
きみ、ちゃんと告知しているんだろうね!?」
「ええ、もちろん。
どこでも誰にでも見境なくたくさん告知してますよ」
「見境なく……?」
スポンサーの顔が凍り付いた。
「あの商品、宣伝ウザすぎるよね」
「なんか売るのに必死になりすぎて引くわ」
「イメージ悪いから買うのやめよ」
街の声を聴いたとたん、スポンサーは泣きついた。
「お願いだ! もう告知しないでくれっ!
これ以上は逆効果になってしまう!」
「いいえ、もっと多くの人に知ってもらわないと♪」
私はスポンサーに笑顔を向けてさらに告知を続けた。
ほどなくスポンサーがつぶれたのは後の話。
「麻衣」
「……大丈夫なの? 私に近づいて。
私みたいなイメージ悪い子に近づくと
あんたのスポンサーに迷惑がかかるんじゃ……」
「そんなの、もういないよ。
だから今度は普通の友達になってくれる?
告知も宣伝もしない普通の友達に」
麻衣は笑ってうなづいた。
作品名:司会「告知があるんだよね?」 作家名:かなりえずき