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目の話

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朝目が覚めると、目が4つに増えていた。鏡の前にたってみると、そこにはオリジナルの眉毛と目の下に新しく存在する眉毛と目がこちらを見つめかえしていた。さらに奇妙なことに、毛穴と言う毛穴からほとんど顔を覆うように毛が生えていてとても汚らしい顔つきになっていた。何が起こったのか全くわからなかった。
試しに右手のひらで元々あった両目をふさいでみた。けれど見える景色に変化がない。頬骨があったあたりにできた新しい目はみえているらしい。

急いで眼科に電話をして状況を説明すると、受付らしい女性は
「ホルモンバランスの乱れですね。よくあることです。」と普段どおりと思える口調で言い、
「11時に予約しておきますのでいらっしゃってください。あと、驚かれる方もいますので下の目が見えないようにマスクをしてきてください。」
ガチャリと電話が切れた。
唖然としたまま切れた電話を持っていると、不意に笑いがこみ上げてきて大声で笑った。
私は頭がおかしくなったのか。

けれど、他にどうすることもできずに、結局言われたとおり毛むくじゃらの顔にマスクをつけ、眼科へ向かった。
受付には先ほどの電話の女性とおぼしき人が一人いるだけで他に患者も私以外誰もいなかった。
カルテを渡され記入するとすぐに診察室へ通された。

説明するよりも先にマスクを外すと、
「ホルモンバランスの乱れですね。」と、受付の女性と同じことを言われた。
「進行が通常より早いので10日分飲み薬をだしておきますが、まあ一週間も飲めばよくなるでしょう。よくならなければまた来て下さい。お大事に。」

なんとも呆気無く診察が終わり、薬をもらって家に帰った。

数日飲み続けると、まず、顔中の毛がどこかえ消えた。さらに飲み続け、新しい目も小さくなってきた日の朝、洗濯機に服を入れていると夫が表情一つ変えずに、
「そうじゃないと思っていたのに、お前には騙された。」と言い残して会社に行ってしまった。

私には騙されたが何のことだかわからなかったが、きっとこの新しい目のことを言っているんだなと思った。

医者の言った通り薬を飲み終わる頃には、元通りの二つの目と眉毛になっていて少し安心できた。が、結局目と眉毛とけむくじゃらの原因はよくわからずじまいである。


その後、うまくいかなくなった夫婦生活は終わりを迎え、私はこうして物書きとしてすごしているわけだが、あの時のことは未だ忘れられずに心に深く残っている。
あの奇妙にも目の生えてきた現象と眉毛と毛むくじゃらと、医者のこなれた感じと、そして夫の言動と。
もちろんあれから一度も4つ目の人間にはでくわしていないし、どうして眼科に電話をかけたのか、更にはどこの眼科だったのかすら思い出せない。けれどあの時、たしかに私の顔には目が4つあって、それらは確かに世界をみていた。それだけは紛れもない真実である。
作品名:目の話 作家名:木津珀音