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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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"あなた"だけは友達じゃない

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「えーー。であるからして、
 現在わが国では原因不明の人口減少が問題になっております」

先生の長い話なんか聞いている人は誰もいない。

「ねえ、昨日撮ったプリクラ、みんなのスマホに貼ろうよ」

私はごくごく当たり前に、朝のあいさつでもするくらいな気持ちで言った。
でも、友達の反応は予想外だった。

「えーー……スマホに?」
「いやぁ、それはないっしょ」
「日記に貼ればいいんじゃないかな」



「なんで!? みんな一緒にしようよ! 私たち友達でしょ!?」

のどまで出かかった言葉をぐっと飲み込む。
そんなことを言えば、あっという間に私は孤立してしまう。

"ノリが違うやつ"として距離を置かれてしまう。

「あ、あはは……だよね。
 やだなぁ、冗談だよ冗談……」

私の口から出る言葉は、いつも相手に合わせる言葉ばかり。
でも、みんなは誰も私に合わせようともしてくれない。


「こんにちは」


人がいなくなった放課後、知らない子に声をかけられた。
どこにでもいる顔で、どこにでもいる地味な存在。

「私ね、「あなた」って名前なの。
 前からあなたと友達になりたいと思ってたの。
 友達になってくれない?」

「え? うん、いいよ」

「ありがとう! すっごく嬉しいよ!」

"あなた"との出会いは唐突でとても事務的だった。


「ねぇ、なに色が好き?」

「あたしは青色かな」
「そうなんだ! 青が好きなの! 嬉しい!」

"あなた"は明るくいい子で、最初の薄気味悪さはすぐに吹っ飛んだ。

「ねぇ、なんの食べ物が好き?」

「あたし? あたしは……」

なんだろう。
好きな食べ物なんて、いつも相手に合わせて答えていた。
本当に好きなのは……

「……たこ焼き」

「たこ焼き! おいしいよねぇ~~! 私も大好き!」

「本当!? いつも女の子っぽくないって言われるから隠していたんだ」
「隠すことなんてないよ、私たち友達だもん!」

"あなた"の前ではどんなことも話せる気がする。
どんなことでも同意してくれるし、どんなことでも合わせてくれる。

こんな友達が欲しかった。
等身大のあたしを受け止めてくれる友達を。



それから数日後、"あなた"はあたしと完全に同じ服装でやってきた。

「ちょっ……"あなた"!? なにそれ!?
 どうしてあたしと同じ服装してるの!?」

「えへへ、だって私、主人公ちゃんのこと大好きだもん。
 少しでも主人公ちゃんと仲良くなりたくて近づきたくて」

「でもこれは……」

「いいじゃない! だって私たち友達でしょう!?」

「そ、そうだよね。うん、そうだよ!」

さんざん人に合わせてほしいって思っていたのに、
自分にあわされるときだけ拒絶するなんて、あたしどうかしていた。

「あれ? "あなた"、その傷は?」

服からわずかに露出している肌から小さなやけどがある。

「これ? 小さいときの傷だよ。
 でも、別に気にしてないから隠してないの」

「そうなんだ」


"あなた"のあたしへのあこがれは日増しに強くなっていった。

あたしと同じ服装はもちろん、あたしが着ていた服をほしがり
あたしと同じ髪型、同じバッグ、同じケータイ……。

身の回りのものはほぼあたしと同じものでそろえていた。

「"あなた"。なに? 急に見せたいものがあるって……」

"あなた"に呼ばれて、初めて彼女の部屋に入った。
レイアウトもそろえている品々もあたしの部屋とまったく同じ。

「じゃーん、見て。私の顔、そっくりでしょ!」

「ひっ!?」

"あなた"の顔はあたしそっくりに整形されていた。
双子以上にそっくりなその顔は薄気味悪さを感じさせる。


「私ね、小さいころから個性がないって言われてきたの。
 ずっと主人公ちゃんみたいな女の子になりたくて……」

"あなた"は机を開けて1枚の書類を取り出した。

「ほら! 見て! 私も名前の変更が認められて、
 主人公ちゃんと同じ名前になれたんだよ!」

「うそ……」

「主人公ちゃんも嬉しいでしょ? 私たちなにもかも一緒だよ?」

あたしの顔を、あたしの顔がのぞき込んでいる。
違う。やっぱりこんなの違う。


「こんなのおかしいよ! "あなた"やってることおかしいよ!
 あたしと"あなた"は違う人間でしょ!? 同じになんてなれない!」

「どうして? 嬉しくないの?
 主人公ちゃんと同じ私ならなんでもわかってあげられるよ」

「同じじゃない! あたしと"あなた"は違う!!」


"あなた"はあたしの言葉を聞いてしゅんと肩を落とした。


「……ごめん。そうだよね……私もわかった。
 私、主人公ちゃんと同じになれば……主人公ちゃんになれると思っていた」

「"あなた"……!」

「でも、そうじゃないんだね。
 主人公ちゃんにはこれまで過ごしてきた日々があるんだもん。
 私が姿を似せても……手に入れられるわけじゃない。
 私、やり方を間違っていたんだね」

「"あなた"わかってくれたのね!」

※ ※ ※

翌日の学校は朝から騒がしかった。

「聞いた? あのニュース……怖いよねーー」
「主人公も見た? この近くだっていうじゃん」

「そうそう、私の家の近くだから怖かったよ~~」

この近所は閑静な住宅街として有名なのに、
殺人事件が起きたともなれば話題は集中する。
まして、被害者が同年代の女子ともなればなおさら。

「主人公ちゃん、今日の放課後一緒にお茶してかない?」

「うん! 行く行く~~!」

主人公が立ち上がった拍子に、わずかに見える肌に友達が気付いた。



「あれ? 主人公、やけどなんてあった?」

「昨日ねちょっといろいろやっちゃって」

"あなた"は友達と歩いていった。