このままでんげんをおきりください...
久しぶりに実家に帰ると部屋はそのままだった。
「掃除でもするか……」
ほこりまみれの部屋に
普段抱くはずのない掃除への使命感を感じて掃除を開始。
本をどけ、押入れを開けているうちに
見慣れないゲームカセットが出てきた。
《 ぼく 》
古いゲームカセットだった。
買った記憶もないし、友達から借りたまま忘れたんだと思う。
掃除を続けていると電話がかかった。
「はい、もしもし」
『あ、オレ。同級生だった佐藤だよ。
お前今何してる?』
「掃除」
『じゃなくて仕事だよ』
「サラリーマンだけど」
『サラリーマン? あはは、マジかよ。
クラスいちの人気者だったお前が!? 信じらんねぇー!』
「……だからなんなんだよ」
『オレさ、今一流企業のCEOやってるんだ。
いい仕事ついてたらビジネスパートナーにでも、と思ったけど
……そのぶんじゃ必要ないわ。じゃな』
――ブチッ。
電話が切れたのか、堪忍袋の緒が切れたのかわからない。
本当はビジネスのことなんてこれっぽちも考えていない。
どうせ今の自分の地位をひけらかしたかっただけなんだろう。
「くそっふざけやがって」
電話で思い出した。
昔はあの佐藤とも仲が欲てゲームを貸し借りしていた。
でも、あの性格の悪さに気付いてからだんだん距離を置いて
借りていたゲームも返しづらくなっていったんだ。
俺はかつての友情を思い出すために、
ゲームカセットをセットしてみる。
「データなんて残ってないだろうな」
▶ファイル1:さとう
ファイル2:たかし
残っていた。
起動するかどうかすら怪しかったのに、
こんな古いゲームカセットでもちゃんと残っているんだ。
とりあえず、ファイル1「さとう」のデータを選択する。
ゆうしゃ:さとう レベル32
しょくぎょう:CEO
もちもの:たいきん
「なんだ……これ?」
データの再開場所は「とうきょう」という場所。
そこには知っている店の名前も駅名もある。
ゲームじゃない。
いや、ゲームなのか?
レベルも、今思えば俺たちと同じ年齢、32歳。
試しにゲームを進めて職業を変えてみることに。
*「どの職業にするかね?」
▶ニート
「あはははは。ニートとかあるのか」
ふざけて選ぶと、テレビから緊急ニュースが流れる。
『ここで緊急ニュースです。
ただいま、世界で有名な企業『ラーマンブラザース』が
急きょ倒産しました! 原因は不明です!』
「え゛っ」
テレビには、さっき電話していた佐藤が会見に出ている。
まさか、このゲームは現実とリンクしているに違いない。
「ようし! さんざん自慢しやがって!! 目にもの見せてやる!」
職業ニートとなった「さとう」を操作して、
持ち物すべてをうっぱらい、たくさん悪いことをしていく。
*「ゆうしゃさとう! たいほされるとはなさけない!」
「あははは!! ざまあみろ!!」
もうこれ以上悪くできないところまで進めると、
ゲームを保存して終了するとタイトル画面に戻る。
ファイル1:さとう
▶ファイル2:たかし
「俺のデータはどうなってるんだ……?」
ファイル2を今度は選択する。
レベル32
しょくぎょう:さらりーまん
もちもの:なし
データはまさに俺の今の状況と同じ状態になっている。
スタート地点は「じっか」になっている。
「ようし、強化しまくってやるぜ!」
まずはいい職業につかなくては。
*「どの職業にするかね?」
▶CEO
*「CEOになるためにはけいけんちがたりないぞ」
*「どの職業にするかね?」
▶しゃちょう
*「しゃちょうになるためにはじんぼうがたりないぞ」
「できねぇじゃねぇか!!」
結局さらりーまん以外の職業は選べない。
どれもこれも何か足りないとだけ宣言される。
その後も、女の仲間を増やそうとしても
*「ごじょうだんを! けっこんしていらっしゃる!」
金を集めようとしても
*「しかし! うまくいかなかった!」
なにをやっても「さとう」のような状態にすることはできない。
俺はこのまま普通の人生を普通に生きて死ぬしかないのか。
「そんなわけあるかぁぁぁ!!」
思い出した。
このゲームは古いゲームカセット方式。
簡単にバグらせることもできるし、
きっと裏ワザだってあるに違いない。
試しに複雑な動きをしてみるとあっさりバグった。
*「どどどどのしょくぎょうにするかねねねねねね」
▶CEO
い゛ぎだっあ
ああああああ×13
あれだけ経験値が足りないとばかり言われた職業にも
バグらせたおかげであっさり入れた。
『突然だが君を最高取締役に置くことにした!
これは会社の決定事項だ! わかったな!』
選択してからすぐに嬉しい連絡が入る。
そのまま女の仲間を増やして金を集める。
バグっているので、店でどんなものを買ってもお金はかからない。
レベル32
じょぐぎょう゛:CEO
もちもの:だいきん、おんな゛、くるま「「「
とち、ざいさん゛゛ だあだまでわ゛
「わははは! 最高だぜ!! もう幸せだ!!」
ゲームをさらにエスカレートしていると、
部屋にノックもせずに母が入ってきた。
「さっきからうるさいわよ! 掃除進んでるの!?」
母親の声がたしかに聞こえ、気配も感じたはず。
なのに、開いたままのドアに人影は見えない。
「ちょっと見てないで答えなさい!」
叱る母の声だけが聞こえる。
「まさか……」
ゲーム内の「じっか」に戻ると、「はは」の姿が消えていた。
バグってしまったせいで体が消えてしまっている。
それだけじゃない。
バグのせいで母校は水没し、町の人たちも壊れている。
俺が歩くたびに地面は壊れ崩壊していく。
「きいているのののののののの?
きいてるののののの?
きいてるのののののののの?
きいてるののののののののの?
どのしょくぎょうにするかね?どのしょくぎょうにするかね?
どのしょくぎょうにするかね?どのしょくぎょうにするかね?」
「うわぁああ!!」
すぐにゲームをリセットする。
けれどすでにセーブをした後でバグのまま保存してしまっている。
「だだじゃばま゛じぎぉん゛いるがい」
ゲームカセットを本体から抜き取る。
ゲームさえ抜いてしまえば……!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「だ、ダメなのかよ!?」
母親は消えたり現れたり点滅を繰り返す。
このままじゃ俺が一歩歩いただけで世界が崩壊していく。
いや、待て。
このゲームソフトは古い。
強い衝撃には弱いはずだ。
「このっ!!!」
ゲームカセットを思い切り地面に叩きつけた。
「あれ? なんでこの部屋に来てたのかしら?」
点滅していた体はもとに戻っていた。
「掃除でもするか……」
ほこりまみれの部屋に
普段抱くはずのない掃除への使命感を感じて掃除を開始。
本をどけ、押入れを開けているうちに
見慣れないゲームカセットが出てきた。
《 ぼく 》
古いゲームカセットだった。
買った記憶もないし、友達から借りたまま忘れたんだと思う。
掃除を続けていると電話がかかった。
「はい、もしもし」
『あ、オレ。同級生だった佐藤だよ。
お前今何してる?』
「掃除」
『じゃなくて仕事だよ』
「サラリーマンだけど」
『サラリーマン? あはは、マジかよ。
クラスいちの人気者だったお前が!? 信じらんねぇー!』
「……だからなんなんだよ」
『オレさ、今一流企業のCEOやってるんだ。
いい仕事ついてたらビジネスパートナーにでも、と思ったけど
……そのぶんじゃ必要ないわ。じゃな』
――ブチッ。
電話が切れたのか、堪忍袋の緒が切れたのかわからない。
本当はビジネスのことなんてこれっぽちも考えていない。
どうせ今の自分の地位をひけらかしたかっただけなんだろう。
「くそっふざけやがって」
電話で思い出した。
昔はあの佐藤とも仲が欲てゲームを貸し借りしていた。
でも、あの性格の悪さに気付いてからだんだん距離を置いて
借りていたゲームも返しづらくなっていったんだ。
俺はかつての友情を思い出すために、
ゲームカセットをセットしてみる。
「データなんて残ってないだろうな」
▶ファイル1:さとう
ファイル2:たかし
残っていた。
起動するかどうかすら怪しかったのに、
こんな古いゲームカセットでもちゃんと残っているんだ。
とりあえず、ファイル1「さとう」のデータを選択する。
ゆうしゃ:さとう レベル32
しょくぎょう:CEO
もちもの:たいきん
「なんだ……これ?」
データの再開場所は「とうきょう」という場所。
そこには知っている店の名前も駅名もある。
ゲームじゃない。
いや、ゲームなのか?
レベルも、今思えば俺たちと同じ年齢、32歳。
試しにゲームを進めて職業を変えてみることに。
*「どの職業にするかね?」
▶ニート
「あはははは。ニートとかあるのか」
ふざけて選ぶと、テレビから緊急ニュースが流れる。
『ここで緊急ニュースです。
ただいま、世界で有名な企業『ラーマンブラザース』が
急きょ倒産しました! 原因は不明です!』
「え゛っ」
テレビには、さっき電話していた佐藤が会見に出ている。
まさか、このゲームは現実とリンクしているに違いない。
「ようし! さんざん自慢しやがって!! 目にもの見せてやる!」
職業ニートとなった「さとう」を操作して、
持ち物すべてをうっぱらい、たくさん悪いことをしていく。
*「ゆうしゃさとう! たいほされるとはなさけない!」
「あははは!! ざまあみろ!!」
もうこれ以上悪くできないところまで進めると、
ゲームを保存して終了するとタイトル画面に戻る。
ファイル1:さとう
▶ファイル2:たかし
「俺のデータはどうなってるんだ……?」
ファイル2を今度は選択する。
レベル32
しょくぎょう:さらりーまん
もちもの:なし
データはまさに俺の今の状況と同じ状態になっている。
スタート地点は「じっか」になっている。
「ようし、強化しまくってやるぜ!」
まずはいい職業につかなくては。
*「どの職業にするかね?」
▶CEO
*「CEOになるためにはけいけんちがたりないぞ」
*「どの職業にするかね?」
▶しゃちょう
*「しゃちょうになるためにはじんぼうがたりないぞ」
「できねぇじゃねぇか!!」
結局さらりーまん以外の職業は選べない。
どれもこれも何か足りないとだけ宣言される。
その後も、女の仲間を増やそうとしても
*「ごじょうだんを! けっこんしていらっしゃる!」
金を集めようとしても
*「しかし! うまくいかなかった!」
なにをやっても「さとう」のような状態にすることはできない。
俺はこのまま普通の人生を普通に生きて死ぬしかないのか。
「そんなわけあるかぁぁぁ!!」
思い出した。
このゲームは古いゲームカセット方式。
簡単にバグらせることもできるし、
きっと裏ワザだってあるに違いない。
試しに複雑な動きをしてみるとあっさりバグった。
*「どどどどのしょくぎょうにするかねねねねねね」
▶CEO
い゛ぎだっあ
ああああああ×13
あれだけ経験値が足りないとばかり言われた職業にも
バグらせたおかげであっさり入れた。
『突然だが君を最高取締役に置くことにした!
これは会社の決定事項だ! わかったな!』
選択してからすぐに嬉しい連絡が入る。
そのまま女の仲間を増やして金を集める。
バグっているので、店でどんなものを買ってもお金はかからない。
レベル32
じょぐぎょう゛:CEO
もちもの:だいきん、おんな゛、くるま「「「
とち、ざいさん゛゛ だあだまでわ゛
「わははは! 最高だぜ!! もう幸せだ!!」
ゲームをさらにエスカレートしていると、
部屋にノックもせずに母が入ってきた。
「さっきからうるさいわよ! 掃除進んでるの!?」
母親の声がたしかに聞こえ、気配も感じたはず。
なのに、開いたままのドアに人影は見えない。
「ちょっと見てないで答えなさい!」
叱る母の声だけが聞こえる。
「まさか……」
ゲーム内の「じっか」に戻ると、「はは」の姿が消えていた。
バグってしまったせいで体が消えてしまっている。
それだけじゃない。
バグのせいで母校は水没し、町の人たちも壊れている。
俺が歩くたびに地面は壊れ崩壊していく。
「きいているのののののののの?
きいてるののののの?
きいてるのののののののの?
きいてるののののののののの?
どのしょくぎょうにするかね?どのしょくぎょうにするかね?
どのしょくぎょうにするかね?どのしょくぎょうにするかね?」
「うわぁああ!!」
すぐにゲームをリセットする。
けれどすでにセーブをした後でバグのまま保存してしまっている。
「だだじゃばま゛じぎぉん゛いるがい」
ゲームカセットを本体から抜き取る。
ゲームさえ抜いてしまえば……!!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「だ、ダメなのかよ!?」
母親は消えたり現れたり点滅を繰り返す。
このままじゃ俺が一歩歩いただけで世界が崩壊していく。
いや、待て。
このゲームソフトは古い。
強い衝撃には弱いはずだ。
「このっ!!!」
ゲームカセットを思い切り地面に叩きつけた。
「あれ? なんでこの部屋に来てたのかしら?」
点滅していた体はもとに戻っていた。
作品名:このままでんげんをおきりください... 作家名:かなりえずき