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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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このままでんげんをおきりください...

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久しぶりに実家に帰ると部屋はそのままだった。

「掃除でもするか……」

ほこりまみれの部屋に
普段抱くはずのない掃除への使命感を感じて掃除を開始。

本をどけ、押入れを開けているうちに
見慣れないゲームカセットが出てきた。


《 ぼく 》


古いゲームカセットだった。
買った記憶もないし、友達から借りたまま忘れたんだと思う。

掃除を続けていると電話がかかった。

「はい、もしもし」

『あ、オレ。同級生だった佐藤だよ。
 お前今何してる?』

「掃除」

『じゃなくて仕事だよ』

「サラリーマンだけど」

『サラリーマン? あはは、マジかよ。
 クラスいちの人気者だったお前が!? 信じらんねぇー!』

「……だからなんなんだよ」

『オレさ、今一流企業のCEOやってるんだ。
 いい仕事ついてたらビジネスパートナーにでも、と思ったけど
 ……そのぶんじゃ必要ないわ。じゃな』


――ブチッ。

電話が切れたのか、堪忍袋の緒が切れたのかわからない。
本当はビジネスのことなんてこれっぽちも考えていない。

どうせ今の自分の地位をひけらかしたかっただけなんだろう。

「くそっふざけやがって」

電話で思い出した。
昔はあの佐藤とも仲が欲てゲームを貸し借りしていた。

でも、あの性格の悪さに気付いてからだんだん距離を置いて
借りていたゲームも返しづらくなっていったんだ。

俺はかつての友情を思い出すために、
ゲームカセットをセットしてみる。

「データなんて残ってないだろうな」


▶ファイル1:さとう
ファイル2:たかし


残っていた。
起動するかどうかすら怪しかったのに、
こんな古いゲームカセットでもちゃんと残っているんだ。

とりあえず、ファイル1「さとう」のデータを選択する。


ゆうしゃ:さとう レベル32

しょくぎょう:CEO
もちもの:たいきん


「なんだ……これ?」

データの再開場所は「とうきょう」という場所。
そこには知っている店の名前も駅名もある。

ゲームじゃない。
いや、ゲームなのか?

レベルも、今思えば俺たちと同じ年齢、32歳。

試しにゲームを進めて職業を変えてみることに。


*「どの職業にするかね?」
  ▶ニート

「あはははは。ニートとかあるのか」

ふざけて選ぶと、テレビから緊急ニュースが流れる。


『ここで緊急ニュースです。
 ただいま、世界で有名な企業『ラーマンブラザース』が
 急きょ倒産しました! 原因は不明です!』

「え゛っ」

テレビには、さっき電話していた佐藤が会見に出ている。
まさか、このゲームは現実とリンクしているに違いない。

「ようし! さんざん自慢しやがって!! 目にもの見せてやる!」

職業ニートとなった「さとう」を操作して、
持ち物すべてをうっぱらい、たくさん悪いことをしていく。


*「ゆうしゃさとう! たいほされるとはなさけない!」


「あははは!! ざまあみろ!!」

もうこれ以上悪くできないところまで進めると、
ゲームを保存して終了するとタイトル画面に戻る。


ファイル1:さとう
▶ファイル2:たかし


「俺のデータはどうなってるんだ……?」

ファイル2を今度は選択する。


レベル32

しょくぎょう:さらりーまん
もちもの:なし


データはまさに俺の今の状況と同じ状態になっている。
スタート地点は「じっか」になっている。

「ようし、強化しまくってやるぜ!」

まずはいい職業につかなくては。


*「どの職業にするかね?」
  ▶CEO

*「CEOになるためにはけいけんちがたりないぞ」

*「どの職業にするかね?」
  ▶しゃちょう

*「しゃちょうになるためにはじんぼうがたりないぞ」


「できねぇじゃねぇか!!」

結局さらりーまん以外の職業は選べない。
どれもこれも何か足りないとだけ宣言される。

その後も、女の仲間を増やそうとしても

*「ごじょうだんを! けっこんしていらっしゃる!」

金を集めようとしても

*「しかし! うまくいかなかった!」

なにをやっても「さとう」のような状態にすることはできない。
俺はこのまま普通の人生を普通に生きて死ぬしかないのか。





「そんなわけあるかぁぁぁ!!」

思い出した。
このゲームは古いゲームカセット方式。

簡単にバグらせることもできるし、
きっと裏ワザだってあるに違いない。

試しに複雑な動きをしてみるとあっさりバグった。


*「どどどどのしょくぎょうにするかねねねねねね」
 ▶CEO
  い゛ぎだっあ
  ああああああ×13


あれだけ経験値が足りないとばかり言われた職業にも
バグらせたおかげであっさり入れた。

『突然だが君を最高取締役に置くことにした!
 これは会社の決定事項だ! わかったな!』

選択してからすぐに嬉しい連絡が入る。
そのまま女の仲間を増やして金を集める。

バグっているので、店でどんなものを買ってもお金はかからない。


レベル32

じょぐぎょう゛:CEO
もちもの:だいきん、おんな゛、くるま「「「
     とち、ざいさん゛゛ だあだまでわ゛


「わははは! 最高だぜ!! もう幸せだ!!」

ゲームをさらにエスカレートしていると、
部屋にノックもせずに母が入ってきた。

「さっきからうるさいわよ! 掃除進んでるの!?」

母親の声がたしかに聞こえ、気配も感じたはず。
なのに、開いたままのドアに人影は見えない。

「ちょっと見てないで答えなさい!」

叱る母の声だけが聞こえる。

「まさか……」

ゲーム内の「じっか」に戻ると、「はは」の姿が消えていた。
バグってしまったせいで体が消えてしまっている。

それだけじゃない。

バグのせいで母校は水没し、町の人たちも壊れている。
俺が歩くたびに地面は壊れ崩壊していく。


「きいているのののののののの?
 きいてるののののの?
 きいてるのののののののの?
 きいてるののののののののの?
 どのしょくぎょうにするかね?どのしょくぎょうにするかね?
 どのしょくぎょうにするかね?どのしょくぎょうにするかね?」

「うわぁああ!!」

すぐにゲームをリセットする。
けれどすでにセーブをした後でバグのまま保存してしまっている。

「だだじゃばま゛じぎぉん゛いるがい」

ゲームカセットを本体から抜き取る。
ゲームさえ抜いてしまえば……!!


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「だ、ダメなのかよ!?」

母親は消えたり現れたり点滅を繰り返す。
このままじゃ俺が一歩歩いただけで世界が崩壊していく。

いや、待て。
このゲームソフトは古い。
強い衝撃には弱いはずだ。

「このっ!!!」

ゲームカセットを思い切り地面に叩きつけた。






「あれ? なんでこの部屋に来てたのかしら?」

点滅していた体はもとに戻っていた。