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まひる@正午の月
まひる@正午の月
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LOVER'S GAME ~学食~

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翠の食事は大体学食で済ませる。実は翠は家事がからっきしできない。そのため、学食はなくてはならないものだ。

この金持ち学校の学食は、おおよそ学食と呼べるようなものではない。カフェテリアとか、レストランに近い。厨房には有名ホテルのシェフや、高級料亭の板長や中華料理の巨匠が
毎日交代制で料理を提供する。だから、曜日によって和洋中ばらばらだ。しかも、ドルチェ担当も曜日ごとに変わるため、生徒は毎日芸術作品ともいえる美しいスイーツを楽しめるのだ。

「翠!今日はイタリアンの日みたいだよ?」

翠にそう話し掛けたのは、見た目中学生くらいの男の子。海藤 優(かいどう ゆう)だ。優は翠の同じクラスで生徒から『優姫(ゆうひめ)』と呼ばれるくらいにかわいい男の子だ。名前の通り、だれに対しても分け隔てなく優しく、翠の数少ない友達でもある。160cm前後の翠よりほんの少しだけ背が高いくらいだが、サッカー部の期待のAである。

「昨日の晩と今日の朝食ってなかっただろ。
絶対に昼はきっちり食うまで逃がさないからな。」

と言いつつ、翠の方をじーっとにらむそこそこ背の高い青年。海藤 爽(かいどう そう)。
優の従兄で恋人だ。生徒から『爽王子(そうおうじ)』と呼ばれる爽やか系のお兄さんだ。最初は翠を優に不用意に近づく輩だと思っていたが、接しているうちに弟のような錯覚が起き、今に至る。バスケ部の次期キャプテンと噂され、学園中から憧れの的だ。彼も翠にとって数少ない友達の一人でもある。

「きのう、夜ご飯食べたもん。
おかあさんに呼ばれてホテルで…。
朝は食べるの忘れてたけど…。」

翠は少し拗ねたように答える。敬語だとスラスラ言える日本語も、友達同士ではため口だよと二人に教えてもらったのでなんとかため口を使うが、会話言葉はあまり上手くない。そのため、どうしても幼い言葉になってしまうのだ。あまり長文で言われても中々理解できないので優と爽は、翠のためにできるだけ短い言葉を心掛けている。

「翠のお母さん?久々に会えた?」

優が翠を空いているテーブルに促す。二人は翠の家庭環境と翠の素顔についてよく知っている。友達である以上、隠せないと思い拙い日本語でなんとか二人に教えたのだ。

「ううん。会えなかった。
八雲グループの会長一家とはご対面したよ?」

翠は席に座って注文用のタッチパネルで何を食べようか迷った末、クリームパスタのクオーターサイズを頼む。クオーターを選択したときに斜め前の爽が文句ありげに見るが、翠は気にしないようにした。二人が注文を終えると翠は昨日あったことと今朝のことについて話した。

「あの会長が…。翠の…?」

爽が目を丸くする。

「うちの可愛い翠が!狙われてる!」

優はわざとらしく嘆く。

「僕何に狙われてるの?」

翠はきょとんとしながら問うと、優はこんな純粋な子がぁ!と何やら叫んでいた。
そこから、優には根掘り葉掘り聞かれるし、そのたびに爽は危機管理能力がないと説教するしで、注文された品が届くまでに翠はぐったりと疲れてしまった。

目の前にアツアツのクリームパスタが置かれると、翠は目をキラキラさせ、一口、また一口と食べ始める。それを少し見届けてから、優と爽が食べ始める。目の前ではラブラブカップルが食べさせあったりしているが、正直目の前の食べ物に夢中な翠が気にするはずもない。
確かに食べるという概念があまりない翠だが、人並みに食べ物の好みはあるし、
無駄に舌が肥えているせいで美味しいものには目がない。美味しいものをたべるのは好きだが、とりあえず、食べる準備をするのを面倒がる。それに、学食は男子校ということもあって量が多い。通常サイズの2倍がこの学食では通常サイズなのだ。サイズもハーフとクオーター、ほかにも1.5倍や2倍と用意しているが、少量サイズはレギュラーサイズにもう一品追加用に作られただけなので単品で頼む人間はあまりいない。だが、もともと食の細い翠にとっては余計にクオーターサイズで丁度だった。

目の前のパスタがちょうど皿の半分にきたころ、扉の方が何やら騒がしくなる。
翠もいつもなら多少のガヤガヤは気にならない。男が恋愛対象なこの学校では、アイドル的存在の生徒が来るたびに煩くなる。目の前のバカップルだって、食堂に入ると煩い。ついでに、いつも一緒に食べる根暗な翠にもヤジがうるさい。ただ、二人とも公認のカップルということで、近寄ってもあまり害がないだけだ。これが、もしフリーの人間なら危険なことぐらい翠も十分承知している。
その最たる例が今食堂にいらっしゃった集団。いつもの歓声の数万倍大きい。耳をふさがなくては、鼓膜がつぶれること間違いなしの歓声に翠は耳がキーンとなった。噂をすればとはこのことだ。彼らこそ、まさしくアイドル中のアイドル、生徒会だ。厄介な奴がきたと急いで行こうと少し残った状態で席を立とうとしたとき、遠くの方から大声で自分の名前を呼ぶやつがいる。正直関わり合いになりたくない翠は無視しようとすると、後ろから腕がまわされ、誰かの胸の中に収まる。

「放してください。僕は教室に帰るんです。」

翠は何とか逃げようともがくが、全く抜けられない。周りからは何あいつや、離れろ根暗とか聞こえてくる。離れろと言われてもくっついてるのあっちだし、僕じゃないし、と心の中で悪態をつくもなおも腕は離れない。

「会長、すみませんが、放してやってくださいませんか。」

救世主のような声が聞こえる。声の方に目をやると思いっきり青海を睨む爽がいた。爽はあまり生徒会が好きではない。むしろ嫌いだ。後ろには同様に青海を睨む同じく生徒会嫌いの優がいた。

「なんだ、俺が誰にくっついていようと勝手だろ。」

青海も同じように睨み返して応戦する。両者一歩も引かない様子でにらみ合っていると、
優が爽の前に一歩出た。

「すみません、会長。
でも翠の場合、ちゃんと昼食食べきらせないと
晩御飯まで抜く可能性あるので。
邪魔しないでいただけますか?」

言葉こそ丁寧だが、優の空気はさっさと出てけとの声が聞こえるようだ。しかし、青海はその空気にまったく気にせず腕の中の翠と翠が食べていたであろう皿の中身を見た。

「翠、お前昼飯これだけか?
しかも飯食わねぇって…。」

青海は少し呆れた声を出してから、翠を椅子に座らせる。その行動に、子ども扱いされたようで翠は余計にムッとした。

「邪魔して悪かったな。
翠は残ってる分しっかり食えよ。」

青海はそれだけ言うと頭を数回ポンポンと叩いてから生徒会の専用席に歩いて行った。会長が誤ったことに対しても驚くべきことだが、帰り際の優しい笑顔を目の当たりにした優と爽は拍子抜けしたように後姿を目で追った。あの傍若無人な生徒会長は人に謝ることはめったにしない。そして、他人を気遣う言葉などほとんどかけない。それにいつも人を見下したような視線を向けたり小ばかにしたような視線を向けたりすることはあっても、先ほどのような優しい視線を向けることはない。あまりにも珍しい光景に優も爽も青海が翠に向ける優しさを認めるしかできなかった。

「あーあ・・・。学食これから使えねぇなぁ・・・。」