ピーターパン張り込み中につき
「まだ動きありません」
二人の刑事は電柱の陰でとある一室を張り込んでいる。
「先輩、本当に現れるんですかね」
「間違いなくピーターパンは現れる。
そして、ウェンディを連れ去りにやってくる」
「大事な一人娘をどこぞの馬の骨にネバーランドへ連れてかれるんだから、
依頼した父親の気持ちも少しわかりますね……」
「ネバーランドのフック船長は極めてずるがしこくて、
空も飛べるし、人を奴隷としてしか扱わない鬼畜なうえに、
他人に化けられる能力まで持っている危険な存在だからな」
「ネバーランド少しも夢の世界じゃないじゃないですか!」
「フック船長さえいなければ、
空が飛べて老化しない最高の世界なんだけどな」
二人はピーターパンが現れるかどうかを夜通し監視していた。
「先輩、もひとついいですか?」
「なんだ」
「どうして女装してるんですか?」
「ああ、これか」
先輩は本気の女装で張り込んでいる。
どこからどうみても10代女子にしか見えない作りこみで。
「男がふたりで街灯の下にいるのは不自然だろう?
めざといピーターパンのことだ、すぐに引き返してしまうだろう。
そのためのカムフラージュのためさ」
「だったら、後輩の僕が……」
「それはダメだ!!」
先輩は急に声を荒げた。
深夜の寝静まった外気に先輩の声が鋭く響いた。
「その……お前じゃ信用できないからな」
「はぁそっすか……」
張り込みを続けること数時間。
日も出始めてもうピーターパンは現れない時間帯に。
「先輩、今日はもう大丈夫そうですよ。
ピーターパンは日が出るころには現れませんし。
きっと僕たちの張り込みに気付いて引き返したとかでしょう」
「いや待て!!」
先輩が指さすと、空から飛んでくる人の影。
「ピーターパンだ!」
「後輩! お前は家を守れ! 侵入を防ぐんだ!
俺はピーターパンを取り押さえる!!」
「わかりました!」
後輩はドアの前に立ってピーターパンに備えると、
先輩はすぐさまピーターパンのもとに駆け寄る。
そして、女装した先輩はピーターパンに声をかけた。
「ピーター! わたし、ウェンディよ! ずっと待ってたの!
さあ、はやく私をネバーランドに連れて行って!」
「せ、先輩!?」
先輩はピーターパンを食い止めるどころか、
守るべきウェンディになりきってピーターパンの手を握る。
先輩の女装の意味はこのためだった。
「ああ、ウェンディ、来てくれたんだね。
さあ一緒にネバーランドへ行こうじゃないか!」
「はい!」
先輩はピーターパンの手を取って、ふわりと浮き上がる。
やがて見えてきたのはネバーランドと大きな船。
「嬉しいわピーター。
これで私もネバーランドにいけるのね」
「ああ、そうとも。ネバーランドだとも」
船が近づくにつれ、ピーターパンの顔がはがれはじめる。
「年老いることなく、ずっと働き続ける世界だからな」
ピーターパンに化けていたフック船長がにやりと笑った。
作品名:ピーターパン張り込み中につき 作家名:かなりえずき