Hysteric Papillion 第17話
「あー、そこそこっ!!いっけえ、桔平ちゃーん!!」
…あ、また入った!!
すごいよ、桔平ちゃん、もうこれで一人で30点は入れてるよ!!
今日は、土曜日。
私立高校というのは、元来土曜というのは休みなもので、私は、桔平ちゃんの通う県立神城高校バスケ部の試合を見に来ていた。
この神城高校のバスケ部は、桔平ちゃんの代から、強いと言われ始めた、いわゆるダークホース的存在だ。
確かに、すごくがんばってたもんね、桔平ちゃん。
ほんと、私のこと、忘れるくらい…ね…全く…!
…まあ、それはそれとしておいといて。
あんまり詳しいことはわからないけど、この試合に勝てば、この夏、北海道で行われる全国大会への切符が手に入るらしい。
全国大会かあ…すごすぎるよ。
だって、この神奈川大会でここまで勝ち残ったのもすごいのに、県の大会のトップばっかり出てくる大会で、桔平ちゃんが戦うなんて…。
同じ幼馴染として、鼻が高いよ、ほんと。
もちろん、桔平ちゃんだけじゃなくて、明仁や章介も、すごくカッコイイんだからね。
そうそう、それから…。
「…桔平、こっちだ!」
「はいっ!!」
ドリブルをしている桔平ちゃんの隣にすっと現れて、ほんとにツーカーコンビ、阿吽の呼吸みたいな感じ。
パシパシパスをまわして、あっさりゴールしたのディフェンスを抜き去ってしまった。
バゴンッという鈍い重い音がしたかと思うと…すごい、ダンクだ!
高く飛び上がったかと思うと、そのまま両手でボールを持ったまま、ゴールのリングに叩きつけるすごい技。
そして、ミシミシッとゴールがきしんだかと思うと、すぐに試合終了の笛が鳴り響いた。
一瞬の静寂が、訪れる。
『ピピーッ!!神城高校…インターハイ初出場決定だーっ!!』
妙にノリノリな放送部のこの声が聞こえた瞬間、観客席にいた私は、やったーっ!!とつい大声を上げて、神城高校の見ず知らずのチアの人たちと肩組んだり、手を握ってはしゃぎまわっていた。
だって、明らかに分が悪いと言われてたんだから。
相手の高校は、今まで伝統みたいにインターハイとやらに出場してきたらしいこのあたりでもバスケでは有名な高校だったはず。
そこに、なんと終わってみたら64対98!!もう少しで100点ゲームにまでなってたんじゃない?
何か今、みんなコートに立ち止まって、こぶしなんか、フルフル震えてる。
さっきから、『桔平ちゃん!!』って呼びかけているのに…。
やっぱり、全然聞いてもくれてないみたいだ。
ただ呆然と立ってる。
トレードマークのハチマキがスルッとほどけても、誰も気づいてもいない。
「終ったな…」
「…やりましたね、センパイ…」
「ああ、インターハイだな…桔平ッ!!」
「そうっスよ!!インターハイだーっ!!いやああったああっ!!」
「桔平ちゃん、章介、明仁、インターハイ出場、おめでとう!!」
「「「おうっ、ありがとう!!」」」
差し入れのドリンクを手渡すと、3人ともゴクゴクとものすごい勢いで飲み始めた。
あっという間に空になって、汗ダラダラの3人は、これ以上はないというくらい幸せそうな顔をしている。
そこで私は、あることに気づいてしまった。
「…あれ、あの人は?」
「あの人?…ああ、今野センパイのことか?」
「センパイなら、たぶん今、大会手続きか何かで顧問に呼び出されてると思うぞ」
ああ、あの人が今野センパイだったんだ。
ラストのダンクシュートを決めてた、背の高い人。
私と桔平ちゃんだと、実は…何気に私の方が2センチくらい高いし、章介と明仁が175,6くらいだとしたら、あのセンパイ、軽く190くらいあるもんなぁ。
しかもけっこう顔もカッコイイし、女の子にはもてるんだろうなー、うちの高校なら、ファンクラブができると思うよ。
「あ…もしかしておまえ、今野センパイに惚れたかあ?」
しょ、章介!?
「やめとけよ?あのセンパイモテすぎるくらいモテるから」
明仁まで何を!!
「バ…バカなこと言うな!!」
惚れるわけないじゃないか!!
その…私には、薫さんが…いるんだから…。
私が薫さんの家に来て、早1週間になろうとしている。
荷物の整理や、慣れない土地から学校に通うことなどでドタバタしていて、ようやく桔平ちゃんのバスケットの試合を見に来ることができた。
学校は3つ駅が遠くなったけど、特に前より苦労していることもないし、乗る駅は歩いてすぐだし、町はきれいだしでいいことばっかり。
それに…何より、薫さんがずーっと一緒だしね。
…いいんだ、もうおのろけでも何でも、幸せなんだからさ!!
でも、まだ桔平ちゃんたちには、薫さんの家に引っ越したことは言ってあるけど、薫さんのことが好きになったまでは言っていない。
まだ、こういう恋愛は受け容れられないものだって知ってるから、言えない…。
というか、これは桔平ちゃんたちを自分が信頼してないことなのかな、とも思うけど…とにかく、時期が来たら、きちんと言うつもりだ。
こういう風にちょこっと考え込んでいた時。
「…なんだ、ここにいたのか、おまえら」
「あ…センパイッ!」
桔平ちゃんが、声のした方向に走っていく。
そして、にこにこ笑いながら、自分よりも30センチ近く高い今野センパイをつれて帰ってくる。
「宥稀、紹介するぜ、今野友希センパイ」
うーん、間近で見ると、ますます大きい。
薫さんも背が高いけど、やっぱり女の人だもんね、華奢だもん。
でも、この人も近くで見るとすらっとしていて、バスケットボール選手というより、雑誌とかのモデルさんみたいな感じだった。
ニカッて笑うと、歯磨き粉のCMみたいな感じで、白い歯がキラッと…実にさわやかな人だ。
「センパイ、こいつがオレたちの幼馴染の司原宥稀です」
ほう…こいつ呼ばわりかい…!
…と、ぐっと拳を握り固めたんだけど、
「へえ、君が桔平たちの…かわいい子じゃないか?」
…なんて言われてしまい、少し胸をなでおろしたりして。
すると、どうしてか照れ始めたのは、私じゃなくて、桔平ちゃん。
「え?いやあ、そんなにかわいいとか言ってくれなくても…」
どうしてか、身振り手振りのジェスチャーまでついてきている。
…どうして?
「…あのさ、どうして桔平ちゃんが照れるの?」
「ええっ!?」
すると、隣から今野センパイが出てきて大笑いし始めた。
同じようにして、章介と明仁が私と桔平ちゃんを交互に見比べながら、おなかを抱えて笑い出す。
…え?何がどうなってるの?
「ハハッ、司原宥稀ちゃんだっけ?桔平はねえ…」
「だ、どあっあおえああーーーーっ!!な、何でもねえよっ、何でもねえっ!!ね、センパイッ!?ね、ね?!お、おまえも気にすんなよ、な!?」
??……妙に取り乱してるなぁ、桔平ちゃん…。
「あらそう、すごいわねえ、桔平君たち?」
…あ、また入った!!
すごいよ、桔平ちゃん、もうこれで一人で30点は入れてるよ!!
今日は、土曜日。
私立高校というのは、元来土曜というのは休みなもので、私は、桔平ちゃんの通う県立神城高校バスケ部の試合を見に来ていた。
この神城高校のバスケ部は、桔平ちゃんの代から、強いと言われ始めた、いわゆるダークホース的存在だ。
確かに、すごくがんばってたもんね、桔平ちゃん。
ほんと、私のこと、忘れるくらい…ね…全く…!
…まあ、それはそれとしておいといて。
あんまり詳しいことはわからないけど、この試合に勝てば、この夏、北海道で行われる全国大会への切符が手に入るらしい。
全国大会かあ…すごすぎるよ。
だって、この神奈川大会でここまで勝ち残ったのもすごいのに、県の大会のトップばっかり出てくる大会で、桔平ちゃんが戦うなんて…。
同じ幼馴染として、鼻が高いよ、ほんと。
もちろん、桔平ちゃんだけじゃなくて、明仁や章介も、すごくカッコイイんだからね。
そうそう、それから…。
「…桔平、こっちだ!」
「はいっ!!」
ドリブルをしている桔平ちゃんの隣にすっと現れて、ほんとにツーカーコンビ、阿吽の呼吸みたいな感じ。
パシパシパスをまわして、あっさりゴールしたのディフェンスを抜き去ってしまった。
バゴンッという鈍い重い音がしたかと思うと…すごい、ダンクだ!
高く飛び上がったかと思うと、そのまま両手でボールを持ったまま、ゴールのリングに叩きつけるすごい技。
そして、ミシミシッとゴールがきしんだかと思うと、すぐに試合終了の笛が鳴り響いた。
一瞬の静寂が、訪れる。
『ピピーッ!!神城高校…インターハイ初出場決定だーっ!!』
妙にノリノリな放送部のこの声が聞こえた瞬間、観客席にいた私は、やったーっ!!とつい大声を上げて、神城高校の見ず知らずのチアの人たちと肩組んだり、手を握ってはしゃぎまわっていた。
だって、明らかに分が悪いと言われてたんだから。
相手の高校は、今まで伝統みたいにインターハイとやらに出場してきたらしいこのあたりでもバスケでは有名な高校だったはず。
そこに、なんと終わってみたら64対98!!もう少しで100点ゲームにまでなってたんじゃない?
何か今、みんなコートに立ち止まって、こぶしなんか、フルフル震えてる。
さっきから、『桔平ちゃん!!』って呼びかけているのに…。
やっぱり、全然聞いてもくれてないみたいだ。
ただ呆然と立ってる。
トレードマークのハチマキがスルッとほどけても、誰も気づいてもいない。
「終ったな…」
「…やりましたね、センパイ…」
「ああ、インターハイだな…桔平ッ!!」
「そうっスよ!!インターハイだーっ!!いやああったああっ!!」
「桔平ちゃん、章介、明仁、インターハイ出場、おめでとう!!」
「「「おうっ、ありがとう!!」」」
差し入れのドリンクを手渡すと、3人ともゴクゴクとものすごい勢いで飲み始めた。
あっという間に空になって、汗ダラダラの3人は、これ以上はないというくらい幸せそうな顔をしている。
そこで私は、あることに気づいてしまった。
「…あれ、あの人は?」
「あの人?…ああ、今野センパイのことか?」
「センパイなら、たぶん今、大会手続きか何かで顧問に呼び出されてると思うぞ」
ああ、あの人が今野センパイだったんだ。
ラストのダンクシュートを決めてた、背の高い人。
私と桔平ちゃんだと、実は…何気に私の方が2センチくらい高いし、章介と明仁が175,6くらいだとしたら、あのセンパイ、軽く190くらいあるもんなぁ。
しかもけっこう顔もカッコイイし、女の子にはもてるんだろうなー、うちの高校なら、ファンクラブができると思うよ。
「あ…もしかしておまえ、今野センパイに惚れたかあ?」
しょ、章介!?
「やめとけよ?あのセンパイモテすぎるくらいモテるから」
明仁まで何を!!
「バ…バカなこと言うな!!」
惚れるわけないじゃないか!!
その…私には、薫さんが…いるんだから…。
私が薫さんの家に来て、早1週間になろうとしている。
荷物の整理や、慣れない土地から学校に通うことなどでドタバタしていて、ようやく桔平ちゃんのバスケットの試合を見に来ることができた。
学校は3つ駅が遠くなったけど、特に前より苦労していることもないし、乗る駅は歩いてすぐだし、町はきれいだしでいいことばっかり。
それに…何より、薫さんがずーっと一緒だしね。
…いいんだ、もうおのろけでも何でも、幸せなんだからさ!!
でも、まだ桔平ちゃんたちには、薫さんの家に引っ越したことは言ってあるけど、薫さんのことが好きになったまでは言っていない。
まだ、こういう恋愛は受け容れられないものだって知ってるから、言えない…。
というか、これは桔平ちゃんたちを自分が信頼してないことなのかな、とも思うけど…とにかく、時期が来たら、きちんと言うつもりだ。
こういう風にちょこっと考え込んでいた時。
「…なんだ、ここにいたのか、おまえら」
「あ…センパイッ!」
桔平ちゃんが、声のした方向に走っていく。
そして、にこにこ笑いながら、自分よりも30センチ近く高い今野センパイをつれて帰ってくる。
「宥稀、紹介するぜ、今野友希センパイ」
うーん、間近で見ると、ますます大きい。
薫さんも背が高いけど、やっぱり女の人だもんね、華奢だもん。
でも、この人も近くで見るとすらっとしていて、バスケットボール選手というより、雑誌とかのモデルさんみたいな感じだった。
ニカッて笑うと、歯磨き粉のCMみたいな感じで、白い歯がキラッと…実にさわやかな人だ。
「センパイ、こいつがオレたちの幼馴染の司原宥稀です」
ほう…こいつ呼ばわりかい…!
…と、ぐっと拳を握り固めたんだけど、
「へえ、君が桔平たちの…かわいい子じゃないか?」
…なんて言われてしまい、少し胸をなでおろしたりして。
すると、どうしてか照れ始めたのは、私じゃなくて、桔平ちゃん。
「え?いやあ、そんなにかわいいとか言ってくれなくても…」
どうしてか、身振り手振りのジェスチャーまでついてきている。
…どうして?
「…あのさ、どうして桔平ちゃんが照れるの?」
「ええっ!?」
すると、隣から今野センパイが出てきて大笑いし始めた。
同じようにして、章介と明仁が私と桔平ちゃんを交互に見比べながら、おなかを抱えて笑い出す。
…え?何がどうなってるの?
「ハハッ、司原宥稀ちゃんだっけ?桔平はねえ…」
「だ、どあっあおえああーーーーっ!!な、何でもねえよっ、何でもねえっ!!ね、センパイッ!?ね、ね?!お、おまえも気にすんなよ、な!?」
??……妙に取り乱してるなぁ、桔平ちゃん…。
「あらそう、すごいわねえ、桔平君たち?」
作品名:Hysteric Papillion 第17話 作家名:奥谷紗耶