Hysteric Papillion 第16話 スピンオフ
顔も真っ赤で体も今、ものすごくあったかくって、そしてやわらかい。
もしかしたら、お酒のせいかしら?
でも、子供って、体温高いって言うわよね?
…ああ、そういえば子供扱いしないでって言われたばかりだったかしら?
撫でると、ふわふわのサイドの髪がくすぐったいくらいに、気持ちいい。
それにしても…。
本当にこの子ってウブっていうか、何も知らないのよねえ…。
今の宥稀ちゃんは、フローリングの上で、本当に生まれたばかりの赤ちゃんみたいに丸くなってる。
ほっぺたも、唇も、みんな、まだ誰も深く触れていない純粋そのものの形。
世界のどこを探しても見つからないくらいきれいで滑かな肌.
私の唇で赤く汚そうなんて思えないくらい、きれい。
でも、今日は少し苛めすぎちゃったみたい。
大人になりたいって言うから、『体だけ大人にしてあげようか?』なんて言って、いろんなところちょっと触ってあげただけなのに、すぐ顔真っ赤にして泣き出しちゃった。
うーん…でも、私も少し脅かしすぎたかもしれないわね。
でも、そういうのを飲み込んで、『薫さんのこと、大好きですから…いいですっ!』って覚悟決めて目を閉じられた時は、どうしようかと思った。
幸い酔ってたから、そのまま、すうっと眠ってくれたから、どうにかなったものの…。
あのまま宥稀ちゃんが起きていたとしたら、私と宥稀ちゃんは、決して踏み込んではいけないところにまで行っていただろうな。
でも、それだけは避けなければいけないのは、自分でしっかりわかってる。
これは肉体的な問題とか、宥稀ちゃんがまだ高校生だからとか、そういう理由じゃない。
そう、そういう理由じゃないんだけど…。
「ん…薫さぁん…」
どうかしたの?…と思ったら、宥稀ちゃんの寝言みたい。
腕をしっかり掴まれて、ベッドに運んであげようにも、どうにも動けなくなっちゃった。
このままじゃ、2人ともカゼひいちゃうぞ?
…もう、かわいいんだから。
チュッと額にキスすると、子猫みたいにキスしたところを手でカリカリする。
君は一体、どんな夢見てるのかな?
私は、君に何をしてあげているの?
不幸な夢じゃなければいいのだけど、夢の中にまで入ることはできないもんね。
でもね、夢の中でまで私のことを考えてくれるなんて、何か体中がくすぐったいのよ?
「薫さんに…手を出すにゃあっ!!」
ビュンンッ……ってちょっと!?宥稀ちゃん、な、何かすごい勢いで今、君の拳、頬掠めたんだけど?!
シュンッ!!……って、続いてふとんがめくれ上がって、天井に向かって足が!?
ふふっ、そっか。
確か、ケンカ強かったもんね…私のこと、夢の中で守ってくれてるんだ。
それで君がケガをしなければいいのだけど、宥稀ちゃんはやさし過ぎるもんね?
夢の中で、私をかばって、大ケガしてたりしてるんじゃない?
「もう、大丈夫だよぉ…薫さん…」
……宥稀ちゃん。
私ね、あなたのこと大好きよ。
世界で一番…ううん、銀河系で、違うわ、宇宙で一番大切な宝物。
君みたいな子が私の家族になってくれるなら、私はしっかり生きていこうって思えるの。
でもね…君はまだ、真実を知らない。
もしも君が真実を知ったとき、君はまだ私のそばで、私の家族でいてくれるのかな。
そして、私は…来るべき時、君を手放すことができるかな。
それ以前に、私は、君の事をどうして見つけてしまったのかな。
もし、君を見つけなければ、こんなに苦しまなくてよかったのに、どうして君は私の前に現れたの。
どうして、君は私のことを、好きになってくれたの。
『君がいる苦しみ』と『君がいない幸せ』。
私は一体、どっちを選べばよかったのかな…。
作品名:Hysteric Papillion 第16話 スピンオフ 作家名:奥谷紗耶