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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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竜宮城はブラックバイト

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「できないじゃないのよ、やるのよ!」

竜宮城では乙姫の檄が今日も飛ぶ。
いつか来る浦島太郎に向けて最高のもてなしをするためだとか。

1日18時間勤務。
休憩30分の週休1日。

華やかな竜宮城にあこがれて入ったものの、
こんなブラックバイトをさせられてはたまったものじゃない。

でも、私が逃げればきっとほかの人に迷惑がかかる。

「はぁ……このまま死ぬまでこき使われるのかな」

今日も激務をこなしてしまう自分に悲しくなった。
竜宮城で用意されているサカナの寮にへとへとで帰った。

「ねえ、鯛。いつになったら浦島さんは来るんだろうね」

「わからないわよ。いつ来るかなんて」

「乙姫は必ず浦島と駆け落ちしようと、
 ここまでひどいもてなし練習させるんでしょう?」

「でも、抜けられないじゃない。
 誰かひとりでも欠けたら負担が残った人に……」

「だったら、みんなで逃げましょうよ」

ヒラメの提案にはっとした。
たしかに、こんなブラックバイト誰も続けたがる人はいない。

私とヒラメは寮のみんなを起こして脱出計画を話した。

「いい? まずは寮のここから出て、地下倉庫に入るの。
 そこから亀のバス停に行って外の世界に出るの」

「あたしたちをこき使った乙姫に一泡ふかせてやるわ」
「わたし達がいなくなれば、きっと一生竜宮城にカンヅメよ」
「いつもいつも自分だけいい思いして……許せない!」

バイトのサカナ達は誰一人反対せずに作戦に乗った。

決行当日、私たちは協力して寮の床を外して地下倉庫に向かう。
地下倉庫は浦島のお土産用として乙姫だけが出入りを許される場所だった。

入るのは初めて。

「わぁ……これが玉手箱」

「開けちゃだめよ」
「わかってる」

いろいろ物色したいけれど、今は脱出が優先。
そのとき、倉庫の隅でなにかが動いた。

「ひっ! なにか動いた!!」

よくよく見てみると、縛られた浦島太郎だった。
すでに浦島は竜宮城に人知れず来ていた。

拘束をといてあげると、浦島は泣きついてきた。

「乙姫の奴、俺のルックスが気に入らなかったから
 第二の浦島太郎が来るのを待つことにしたんだ!」

「そんな……!」

乙姫はすでに浦島が来たことを隠して、
私たちをずっとこき使っていたんだ。なんてひどい。

浦島太郎が来るのを待つんじゃなくて、
自分からさっさと外に出ればいいものを。


「そこにいるのは誰!」


倉庫のドアが開け放たれ、険しい顔の乙姫がやってきた。

「お前たち……まさか逃げるつもりね!
 そうはさせない。ここで私のために働くのよ!!」

「嫌よ! もう舞の練習は完璧じゃない!」
「これ以上練習することなんてないわ!」
「いったい、なにをさせたいのよ!!」

「ええいうるさい子娘ども!!
 売れ残る女の気持ちがあんたらにわかるかぁ!!」

乙姫が襲い掛かるのをサカナたちが必死に止める。

「鯛! 私たちにかまわず外の世界に行って!!」

「でも……」

「早く!!」

仲間たちにせかされて、私は久しぶりの外の世界へ戻ってきた。
時間にして1年しか過ぎていない町並みは、
たいして変わり映えしないけれど、すごく懐かしく感じる。

「ふふ、みんな私が戻ったらなんていうかな」

旧友を訪ねると、友達は一斉に悲鳴を上げた。

「だっ、誰よあんた!?」

「どうしたの、私よ。鯛だって」

「鯛は同い年の友達だもん!
 あんたみたいな……おばあちゃんじゃないわ!」


「え……?」

海に戻って水面に映る自分の姿を見る。
やつれ、白髪になった自分の顔が映っていた。

まるで玉手箱でも開けたみたいに。

「そんな……そんな……」

乙姫が竜宮城から出たがらない理由がわかった。
サカナ達をこきつかって老けさせて、
自分だけが若々しく見えるようにしたかったんだ。


どぷんっ。


私は海に潜って竜宮城を目指した。
あそこにいれば老けていることが気にならないから……。