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戦場の少年兵

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『戦場の少年兵』

そこはアフリカの東海岸の国家である。海に面していて細長く、これといった産業のない砂漠の多い。今もなお内乱状態にある。一発の銃声ですぐに戦場に変わる。いつ銃弾が飛んできて、当たり死ぬかもしれない。そんな危険が日常的にある。平和で生きられることが当たり前の日本では、とても想像できないところである。
それでも、町があり、人が集う。人が集えば、人の輪ができる。輪ができれば笑いの渦が起こる。束の間の平和が生まれる。しかし、ひとたび銃弾か飛んでくれば、輪が崩れる。群衆は一斉に蜘蛛の子を散らしたように消える。

ここでは敵か味方かを容易に区別することは難しい。安易に信じるのは実にリスキーである。他者に心を許さず常に疑いと警戒心の目で見る。少しでも疑念が生じたら決して近づかない。
戦いを拒んでも、生き延びるためには、ときに武器を持たざるを得ない。生きるために、武器で相手を叩きのめす。それがこの国で生きのびる鉄則だ。

子供たちも容赦なく兵士に駆り出される。少年兵Xもそうだった。――ある日、平和だった村が襲われた。大人の男たちはみな殺され、女と子供は連れていかれた。女は奴隷にされるか、売り飛ばされる。Xの一家は姉と彼以外みな殺しにされた。姉は奴隷として遠い異国に売り飛ばされ、Xは少年兵として育てられることになった。まだ十歳だった。

十二歳になったとき、Xは指揮官から棒を渡された。脱走を図った少女を、「 死ぬまで殴れ」と命令されたのである。指揮官に従わざるをえなかった。命令に背いたら、自分が殴られることを知っていたから。
誘拐されてから、多くの人を殺した。冷酷な殺人マシンになっていた。そんな彼でも、人に言っていない望みがあった。それは小さな子供の頃に戻りたいということ。その望みが叶わないことは十分知っているが、それでも、そう願わざるをえなかった。現実があまりにも悲惨であったから。夢があった。学校に行き、医者になること。だが、人を殺す度に、その夢が遠くなることを感じた。
少女を殴れという命令を受けたXは震えた。なぜなら相手があまりにも美しかったからである。そして、その横顔は別れた姉にどこか似ていた。
再び、指揮官は、「殴れ!」と厳しい口調で命令した。
Xが躊躇していると、上官は思いっきりXを殴った。
「馬鹿者!」と怒鳴りながら繰り返し殴った。Xは必至に抵抗した。日頃鬱積したものが爆発したのか、必死に殴り返し、気づくと上官は死んでいた。
Xは少女を連れて逃げた。
幸い多くの兵は闘いに出かけていたので、容易に逃げ出すことができた。だが、指揮官の部下が執拗に追いかけた。捕えて見せしめにするために。

雨季だった。雨は何日間も止まない。
青臭い密林の中にも雨が降る。晴れたときは聞こえた鳥や獣の鳴き声は聞こえない。ただ降る雨だけが耳の中をこだまする。
「もう逃げられない」と少女と口を開いた。
「街に帰りたい」とも言った。
大きな樹の洞で雨宿りした。
少女は眠りを襲われ倒れるように眠った。Xが少女の顔や体に触れた。胸にも触れた。大きくて柔らかかった。すると、少女は大声を上げた。
Xが「どうした?」と聞いた。
少女は、「私を触らないで!」と泣いた。少女は数え切れないほど凌辱された悪夢のような日々を思い出したのである。が、Xは押し倒して自分の欲望を満たした。それを境に少女の精神は壊れていった。数日後、発狂し自殺した。Xは少女を愛していたのに。少女の死を悲しみ絶望し、人間の心を失っていった。
彼はもとに軍隊に戻り、戦うためのみに生きるようになった。

Xが十八になったとき、類まれな戦闘能力によって、指揮官になった。
知人に、「その頬の傷は戦争の勲章か?」と聞かれたとき、
「これは上官に兵士とはいかなるものかを教えられたときにつけられた。もっとも遠い昔の話だが」とXは笑った。
軍隊に戻ったときにつけられたものだった。その傷に触れる度に、「兵士とは私情を持たずに戦うこと」と肝に銘じる。




作品名:戦場の少年兵 作家名:楡井英夫