わたしの美談を聞いてくださいよ
美男子じゃないですよ、美談士です。
現実世界での自分の生きた証はすべて回収してしまいましたので、
せめて自分の生きた証は残したいなと思ったわけです。
え? どういうことかわからない?
死後の世界というのはポイントなんです。
現実世界で生きた証を回収すればするほど、
死後の世界での待遇がよくなるんですよ。
ええ、私も最初聞いたときは驚きました。
こんな仕事をしているものですから、
自分の痕跡はありとあらゆるところに散らばっていますから。
美談士は頼まれて、出来事を美談にして別の人に伝えますからね。
話がそれましたね。
死んだまま現実世界に戻った私は、
自分の生きた痕跡探しをはじめたわけです。
自分の仕事場や資料などを回収し、
まるで"最初から誰もいなかった"ような状態になりました。
ところが、死後世界というのは現実よりも世知辛いんですねぇ。
自分の所持品をいくら回収してきても、
たいしたポイントにならないんですよ。スズメの涙です。
私は悩みました。
なんなら死後世界の方が長くなるのに、
悪い待遇だったら生き地獄になりそうですから。
あ、この場合は死に地獄ですかね。はは。
でも、どこにでも裏ワザというのはあるもので、
私はそれを実践することにしました。
「記憶抜き」です。
自分とかかわった人たちから、自分に関する記憶を回収するんです。
これはかなり効率的です。
友達、家族、仕事仲間、学校の先生……などなど。
自分に関する記憶を抜いては、死後世界に献上していきました。
すると、どんどんポイントがたまっていきました。
人が死んだあと、時間が解決してくれるというのは
単に死後世界の人が回収しているだけなんですね。
いまや、私の死後ポイントは10,000,000pt。
これならどんな素晴らしい待遇がしてもらえるのか楽しみです。
「おお、ここまでポイントためたのか。
それなら特別裏メニューを選ぶことができるぞ」
もちろん、迷うことなんてありません。
私はすぐに裏メニューを選びました。
それは、転生。
新たに人生をやり直せるというんですから最高ですよね。
こうして、私は転生し現実世界に戻ったんですよ。
さて、ここで私の美談は終わりです。
もし、あなたがこの話を忘れるころ
それは私が死後世界からあなたの記憶を抜いたためでしょうね。
話を聞いていたひとりがふと気づいた。
「あれ? 転生したのなら、どうして今は死後世界にいるんだ?」
「転生先がセミで、1日で死んだなんて言ったら美談が壊れるだろ」
作品名:わたしの美談を聞いてくださいよ 作家名:かなりえずき