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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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わたしの美談を聞いてくださいよ

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はじめまして、私、生前は美談士をやっておりました。
美男子じゃないですよ、美談士です。

現実世界での自分の生きた証はすべて回収してしまいましたので、
せめて自分の生きた証は残したいなと思ったわけです。


え? どういうことかわからない?


死後の世界というのはポイントなんです。
現実世界で生きた証を回収すればするほど、
死後の世界での待遇がよくなるんですよ。

ええ、私も最初聞いたときは驚きました。


こんな仕事をしているものですから、
自分の痕跡はありとあらゆるところに散らばっていますから。

美談士は頼まれて、出来事を美談にして別の人に伝えますからね。


話がそれましたね。

死んだまま現実世界に戻った私は、
自分の生きた痕跡探しをはじめたわけです。

自分の仕事場や資料などを回収し、
まるで"最初から誰もいなかった"ような状態になりました。


ところが、死後世界というのは現実よりも世知辛いんですねぇ。


自分の所持品をいくら回収してきても、
たいしたポイントにならないんですよ。スズメの涙です。

私は悩みました。
なんなら死後世界の方が長くなるのに、
悪い待遇だったら生き地獄になりそうですから。

あ、この場合は死に地獄ですかね。はは。


でも、どこにでも裏ワザというのはあるもので、
私はそれを実践することにしました。


「記憶抜き」です。


自分とかかわった人たちから、自分に関する記憶を回収するんです。
これはかなり効率的です。

友達、家族、仕事仲間、学校の先生……などなど。
自分に関する記憶を抜いては、死後世界に献上していきました。

すると、どんどんポイントがたまっていきました。

人が死んだあと、時間が解決してくれるというのは
単に死後世界の人が回収しているだけなんですね。


いまや、私の死後ポイントは10,000,000pt。


これならどんな素晴らしい待遇がしてもらえるのか楽しみです。


「おお、ここまでポイントためたのか。
 それなら特別裏メニューを選ぶことができるぞ」


もちろん、迷うことなんてありません。
私はすぐに裏メニューを選びました。

それは、転生。

新たに人生をやり直せるというんですから最高ですよね。
こうして、私は転生し現実世界に戻ったんですよ。


さて、ここで私の美談は終わりです。


もし、あなたがこの話を忘れるころ
それは私が死後世界からあなたの記憶を抜いたためでしょうね。








話を聞いていたひとりがふと気づいた。

「あれ? 転生したのなら、どうして今は死後世界にいるんだ?」

「転生先がセミで、1日で死んだなんて言ったら美談が壊れるだろ」