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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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未来のあなたに言い残したいことは?

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「ねぇ、私たちってどういう関係?」

「どうって……まあ恋人かな」
「ふぅん」

付き合って9年目。彼女がやたら結婚プレッシャーを与えてくる。
結婚なんて金がかかるだけでなにもいいことはない。

「今日は帰る」

彼女はわざと不快そうな顔で帰って行った。
俺に結婚を意識させたいのだろう。ばかばかしい。

おざなりな見送りついでに外へ出ると、
ポストに手紙が入っていた。
手紙なんていつぶりだろう。メールですませていたからな。


『こんにちは、ぼくは、いまなにをしていますか?
 おとなになったら、おすしやさんになれていますか?

 ぼくはおおきくなったら、おすしやさんになって
 たくさんおいしいおすしをつくりたいです』


子供っぽい手紙。
宛先は間違いなく俺の住所に届いている。

すし屋さん……。
昔の俺の将来の夢と同じじゃないか。


数日後、ふたたび別の手紙が届いた。

『大人になったぼくへ

 大人になったぼくは今、なにをしていますか?
 ぼくは小学校の勉強をがんばっています

 いつかはお父さんみたいなひとになりたいです』


2枚目で確信した、これは間違いなく俺の文字だ。
いつ書いたか昔過ぎて覚えちゃいないけど、間違いなく俺だ。

でも、なんで俺の手紙が……郵便局のいたずらか?

俺は手紙を配達した郵便局へと向かった。

「ああ、この手紙ですか?
 これは未来手紙ですよ。切手が未来用になってるでしょう?」

言われて気付いたが、切手は見たこともないもの。

「未来手紙って……?」

「未来の自分に向けて送れる手紙ですよ。
 ほかにも過去手紙なんかも今はお安くなってますよ」

未来手紙……。
それで、この時代に昔の俺の手紙が届いたのか。

「でも、なんでこの時代にまとめて届くんですか?」

「それは……」

局員は口ごもって目を泳がせた。
わかりやすい動揺っぷりだけど、なにがそうさせるのかわからない。

「あっ、あのっ、これから配達なので! それじゃ!」

それきり話は聞けなかった。
でも手紙は欠かさず送られてくるようになった。


『未来の俺へ。サラリーマンみたいなつまんねー職業につくんじゃねぇよ』

中学生の自分からだろうか。
あのころは、かなり悪ぶっていたっけ。

欠かさず届いていた手紙も、中学生を最後にぴたりと止んでしまう。

きっと手紙を書くのが気恥ずかしくなったんだろう。
次の手紙を届いたのはそれからかなり後になってからだった。



『過去の俺よ、この手紙を見ているころは
 サラリーマンとして働いているときだろうな。
 数年後、辞めたくなるだろうが絶対にやめるんじゃないぞ。
 その翌年に大成功できるから』



手紙を裏返すと、切手は未来切手から過去切手に変わっている。
これは未来の俺からの手紙なんだ。

でも、どうしてこの時代に……。
ここが人生のターニングポイントになるんだろうか。

手紙は、ふたたび定期的に届くようになった。

内容はどれもたいしたことではないものの、
どんどん文字が汚く乱れ始めているのに気が付いた。


『過去のわしよ。今はだいじょうぶだと思っとるだろうが
 のちに、お前さんは体をこわして病きになるじゃろう。
 かくし事はできない。
 だから、この手がみでわしに原因をかくことはできない』


手紙には漢字が減っていく。
俺は将来なにか不治の病にでもなるんだろうか。

隠し事ができないって、どういうことだ。

俺のさまざまな疑問は数日後に届いた手紙でわかった。
文字からは必死に書いたのがわかるほど乱れていた。



『これが最後の手紙になるじゃろう。

 もうわしは手紙を出すことはなくなる。
 自分の限界が見えてきたようじゃ

 わしから言えることは、ただひとつ。
 これをよんでこうどうするなということじゃ』



「最後の手紙……!?」

最後の手紙ってなんだ。
まさか、病気が悪化して未来の俺は死んでいるのか。

手紙を裏返し、消印を確認するときっかり28年後。

28歳の俺は、ちょうど人生の半分になるのか?
人生の折り返し地点だから手紙が届いたのか。


56歳で死ぬ。


「うそだろ……そんなに早く死ぬのかよ……」

もっと生きられると思っていた。
縁側でお茶でもすすりながらのんびり80歳くらいまで生きると思っていた。

俺はあと28年しか、人生を生きられない。

その事実を実感すると、すぐに彼女の家に向かった。


「どうしたのよ連絡もなしに」

迷わず抱きしめると、彼女は驚いていた。
かまうもんか、残り28年しかないんだ。

「ちょっ……どうしたの突然!?」

「結婚しよう」

「えええ!?」

「結婚してくれ」
「ええええええ!?」

最初は冗談めかしていた彼女だったが、
俺の真剣度に押されてついに顔を赤らめて答えた。


「……うん、いいよ」


残りの28年。
俺は寂しくない人生を送りたい、そう思った。




結婚後、未来からメールが届いた。


『やっぽーー過去の俺。未来の俺だよ♪b(^o^)d

 やっぱり手紙だと手が疲れちゃうから、
 前のが最後の手紙で今後はメールにするよ( ̄ー ̄ )ノ

 それにメールだと、嫁に検閲されないから自由に書けるし

 いいか、過去の俺。
 絶対に結婚だけはするなよ!m9(`・ω・́)

 その嫁は必ず将来ストレスでお前を病気にさせるんだから!』