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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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彼女懲役5年に処す!

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「被告を彼女懲役5年の刑に処す!」

牢屋にぶち込まれると、格子の外に彼女がいた。

「は、はじめまして……彼女です」
「これから、その、よろしく」

お互い気恥ずかしい挨拶をしながら、
俺の彼女懲役がはじまった。

1年目。

普通の懲役刑と違うのは彼女と過ごさなくちゃいけない。
でも、これまでとんとモテなかった俺としては
彼女と過ごす牢獄生活がまさに楽園だ。

「まーくん、今日はどんな作業をしたの?」

「みーちゃん、今日もかわいいね」

「ちょっとー会話になってないわよぉ」

もうお互いをノロケ名で呼び合い、
キスとか手をつなぐことはできないけれど
格子を挟んでお互いに愛をはぐくんでいた。



2年目。


飽きた。

「まーくん、おはよっ。今日も頑張ってね♪」

「あ、ああ……」

1年目にベタベタしすぎた反動なのか、
もう彼女に飽き始めている自分に気付いた。

1年目のようにノロケ名で呼ぶことすら恥ずかしい。



3年目。

「まーくん! ちょっとどうしてすぐ寝ちゃうのよ!」
「最近まーくん、私に冷たくない!?」
「ねえ、なんとか言ってよ! 私に飽きたの!?」

ああ、もう。
うるさい。
静かにしてくれ。

3年目になると、彼女は壊れたスピーカー程度の存在に成り下がった。
ここで「飽きたよ、別れよう」と言えればどれだけ楽か。

でも、別れてしまえば彼女懲役は中断により
ふたたび彼女懲役5年から再スタートさせられる。

別れるわけにはいかない。
ここを5年で出所するためにも。



4年目。

彼女は牢獄に来なくなった。

あれほど嫌いになったはずの彼女だったのに、
ぴたりと来なくなることで俺の心はどんどん辛くなっていった。

1年目の楽しい思い出が何度も思い出されて、
彼女に冷たくした自分への自己嫌悪がとめどない。

「うう……ひっく……会いたい……」


彼女懲役の本当の意味がわかった。

きっと、最初に彼女の味を覚えさせて
突き放すことで囚人の心をさらに追い詰めるものなんだ。



彼女懲役 5年目。

彼女が1年ぶりに牢獄にやってきた。

「ああ、会いたかった! ごめんよ!
 俺が悪かった! なんでも謝るよ!!」


「私たち、もう別れましょう」

「……え?」

彼女はなにを言っているんだ?


「あなたと離れて考えたんだけど、
 やっぱり私たちは恋人として合わないもの」

「待ってくれ! ここにきて別れるだなんて……!
 それじゃ俺の彼女懲役はどうなるんだ!!」

「知らないわよ、そんなこと。
 それに、無理にあなたと時間を使ってしまえば
 私の人生もどんどん取り返しのつかないことになるもの。
 女の寿命は男よりもずっとずっと短いのよ」

「そんな……」

「さよなら」

彼女は牢獄の前から立ち去ろうとした。


「待ってくれ!!」


俺は思わず大きな声が出た。

「もう謝ってもどうしようもないってわかってる。
 君が俺を負担だと思い始めていることもわかってる。
 でも……でも、俺は君なしじゃ生きていけないんだ。
 君がいないと何もかも辛く思えてしまうんだ!」

「まーくん……」

「最初は懲役のためにだったけど、今は違う。
 俺は君を愛している。好きなんだ。だから別れたくない!」


俺の言葉を聞いた彼女は大粒の涙を流し始めた。

「私もよまーくん! 私だって別れたくなかった!
 本当はあなたに大事にされてるって自信がなかったの!」

「君を愛している! 世界で一番! 誰よりも!」
「私もよ!」

俺は格子から手をのばして、彼女に触れた。
そして気付いた。



彼女懲役 終了。


彼女懲役を終えた俺は牢獄から出された。

「懲役、お疲れ様でした。
 もうすでにお気づきだと思いますが、彼女には会えませんよ」

「そうでしょうね」

彼女に触れた瞬間、彼女のホログラフが乱れたのがわかった。
俺が彼女だと思っていた人は、存在していなかった。

「ずいぶんリアルなデータなんですね。
 ずっと本当に人だと思っていました」

「本当に人間のモデルがいるんですよ。
 だから言動なども人間らしいんです」

「でも、どうして、彼女懲役なんて……」

看守はふふと笑った。

「自分の中で大切な人ができた人間は、再犯しません。
 人は自分のためよりも、誰かのためにルールを守る動物ですから」

「……そうですね」

彼女が実在しない人間だとしても。

俺の中で生きる彼女から見限られないために、
もう二度と悪さなんてするものか。

「みーちゃん、愛しているよ」

俺は架空の彼女にそっと愛を告げた。









「あ、ちなみに、あの彼女のモデルはあなたのお母さんですよ」

「オエーー!!」

これまでのすべての愛の言葉をことごとく後悔した。