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みやこたまち
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牧神対山羊(同人坩堝撫子4)

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付録「熊桜メモ」


  これは、さかしまな叔父の日記の中ほどにはさんであった紙片です。叔父は自宅にセコムを入れようとしていましたが、リストラされた家にセコムはどうだろうと二の足を踏んでいたんです。世間体ってやつですかねえ…
 「六波羅光寺町右入ル ペンネーム 瀬戸内少年若冲」
 父はたらかず角に立つ。錠に鍵させば長すぎる。無理に回せば警報だ。とかく今夜は入りにくい。入りにくさが高じれば低いところを狙いたくなる。どこを狙っても入りにくいと悟った時、ガラス切りが生まれて、ピッキングが出来る。
 錠をかけたものは神でもなければ、鬼でもない。矢張り向こう三軒両隣にちらちらする唯の人である。唯の人がかけた錠のせいで入りにくいからとて、自宅に入る阿呆はあるまい。あれば、錠の無い家に入るばかりであるが、錠の無い家は錠のある家よりも財産が少なかろう。
 錠の無い家に財産が少なければ、入りにくいところをどれほどか、一発で、束の間の留守を、束の間の間でものにせねばならぬ。ここに空き巣という犯罪が出来て、ここに逃亡という使命が下る。あらゆる窃盗の士は、人の懐をあてにし、自分の暮らしを豊かにするが故に証社マンだ。
 入りにくき家から入りにくき煩いを引き抜いて、ありがたい金庫をまのあたりに写すのが下見であり図面である。あるは変装と訓練である。細かに云えば、盗らずともよい。ただ、まのあたりに見れば、そこに手が行き、欲も涌く。着想を紙には落とさぬ方が、いざというとき逃げられる。丹精すればノブに向かって塗抹せんでもシリンダーの溝型は自ずから心眼に映る。只、おのが入る家を、かく観じ見て、縦横八寸の懐に金銀パールの金庫内を残らず、手早く収めうれば足る。この故に、無声の家人には反抗なく、無職の我には石鹸なきも、かく人世を観じ得るの点において、かく煩悩を解脱するの点において、かく牢獄界に出入し得るの点において、又この不同不二のアリバイを立証しうるの点において、我利私欲の渇望を充足するの点において、千金の子よりも、万乗の君よりも、あらゆる俗界の兆児よりも幸福である。
 世に盗むこと二十年にして、盗むに甲斐ある世と知った。二十五年にして、明暗は表裏のごとしく、日のあたる所にはきっとサツが立つと悟った。三十の今日はこう思うている。喜びの深き時、いよいよ欲深く、楽しみ大いなる程、酒が進む。これを切り離そうとすると身がもてぬ。片付けようとすればあれが立たぬ。金こそが大事だ。大事なものが増えれば寝る間も楽しかろう。恋はうれしい。嬉しいが年が積もれば、何もせぬ昔がかえって恋しかろう。閣僚の足には数百万人を踏みつけている。背中には贈収賄利権損得がおぶさっている。うまい物も食わねば惜しい。少し食えば飽き足らぬ。存分に食えば、あとで胃もたれだ。(以下紛失)