ノンフィクションはいらない
「あれ? でも僕が契約したのは
フィクション保障4回で5000円のじゃなかったんですか」
「現実の大切さを理解するために、
毎回1回分使ってもらっているんですよ」
「は、はあ……」
なんだかよくわからない説明で丸め込まれたけど、
フィクション保障が手に入るのなら問題ない。
「これで、自分の好きなときにフィクションにできるんですね」
嬉しくなって家に帰ると、
さっそく恋人から電話がかかってきた。
『前も話したけど、もう別れましょう。
やっぱり私たち別々に暮らした方がお互いのためよ』
「ああそうだね」
『あれ? いやに納得はやいわね。
昨日までは泣いてすがったじゃない』
「だってフィクションなんだろ?」
※この別れ話はフィクションです。
実在の人物、名称には影響を与えません。
フィクション保障のおかげで、
別れ話なんてただのジョークになった。
これならどんな嫌なことがあってもフィクションにすることができる。
安心していると、今度は警察から連絡が来た。
『もしもし!? ○×マンションにお住いの人ですか!?』
「ええ、そうですが」
『そのマンション放火されてます!』
「なんだって!?」
部屋には大事な漫画やフィギュアがあるのに!
そうだ! こういうときこそ……
※この出来事はフィクションです。
実在の建物、名称には影響を与えません。
「ああ、そのマンションでしたらテキトーに消火してください」
フィクション保障のおかげで、
さっさと切り替えることができた。
だって、これは全部フィクションなんだから。
「でも、フィクションにできるのはあと1回か……。
最後の1回はやっぱりあれに使うしかない」
このフィクション保障にしたのも、
すべてはこのためのものだった。
昔からずっと"ソレ"で悩んでいた。
恥ずかしがりやで内気な自分を救うための方法はこれしかない。
「さあ、フィクション保障!
今の俺の悩みをフィクションにしてくれ!!」
※自分の悩みはフィクションです。
実在の人物、名称には影響を与えません。
これで治ったはずだ!
俺の悩んでいたフィクションになったはず!
「……あれ?」
……はずなのに。
フィクションになったはずの"ソレ"は見当たらない。
「どうして!? まさか、1回分数減らしていたのかあのクソ店員!」
怒りのままにフィクション保障店へと殴り込む。
「おい! どういうことだ! 最後の1回だけ
ぜんぜんフィクションにならないじゃないか!」
「そうですか」
「そうですか、じゃなーーい!!
こんなのは詐欺だ! 訴えてやる!!」
「お客様、最初の契約を覚えていますか?」
「契約ぅ?」
―― 現実の大切さを理解するために、
毎回1回分使ってもらっているんですよ
「ま、まさか……」
※このフィクション保障はフィクションです。
実在の人物、名称、出来事に影響は与えません。
「最初からフィクション保障なんてないんですよ。
これは、ただ現実のつらさのはけ口としてのものなんです。
フィクションだと思えば、たいていは乗り越えられるでしょう?」
「ふざけるな! 俺の悩みは原因がわからない。
だから、フィクションにしてもらうしかないんだよ!」
「ちなみに、あなたの悩みはなんなんですか?」
「俺に友達いないことだ!
いくら考えてもまるで原因がわからない!」
「フィクションにしようとする、
その他力本願な性格が原因だろ」
店員は冷めた目で即答した。
作品名:ノンフィクションはいらない 作家名:かなりえずき