小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

すべての不幸はお前のせいだ

INDEX|1ページ/1ページ|

 
ガツッ!!

後ろからいきなり殴られて地面に倒れた。
その拍子でなにか大事なものが頭からこぼれた気がする。

「痛っ……ててて」

「お前のせいだ!
 お前のせいでうちの弁当屋の売り上げが悪いんだ!」

「はあ?」

思い出した。
ここはたしかさびれた商店街。

「いや、売上悪いのはあなたの弁当が……」

「ちがう! 弁当が売れないのは味が原因だ!
 味が悪いのは水のせいだ! 水が悪くなったのは
 あんたがこの町を歩くことで土ぼこりを上げるからだ!

「そんなむちゃくちゃな!」

「じゃあ、お前に原因がまったく無いって言いきれるのか!?」
「それは……」

たしかに土ぼこりは上げてしまったかもしれないけど。

俺が上げた土ぼこりで引いている川の水がけがれ、
その水で料理をしていることで味が落ち、
味が落ちたことで弁当の売り上げが落ちた可能性もないわけではない。

「だからお前が悪い!!」

「えええええ!?」

その後、しこたま殴られた。
たぶん記憶の少しは飛んだと思うほど。




「治療費は100万円です」

「うそぉ!?」

担ぎ込まれた病院では法外な値段をふっかけられた。

「あなたが来たせいで私の野球観戦の予定がつぶれたんです。
 聞くと、その試合、私が座る席にホームランボ―ルが来たんです。
 もし、それを取っていれば100万円はくだらないですよ。
 だから、あなたの治療費はその損害を含めて100万円」

「あんたそれでも医者か!?」

「医者ですよ。ちょっぴり性格悪いだけです」

「自覚してるんかぃ!」

どうする。
100万円はあるにはあるけど、
こんなことには使いたくない。

そうだ。

「100万円は、あなたのために払いません」

「私のために?」

医者は思わぬ切り返しに目を白黒させた。


「私がここであなたに100万円を渡したとします。
 100万円のいくらかを食費に使った後するとゴミが出ます。
 ごみが出たことで回収の時間がかかり、
 回収車は長く道路にとどまることになります。
 長くとどまることで排気ガスが空気を汚し、
 空気が汚れたことで空気清浄機が必要になる」

「それと、100万円払わないのとどう関係があるんですか」

「まだわからないんですか? ここは病院でしょう?」

医者はわかりやすく「しまった!」という顔になった。

「病院ともなれば、患者のために空気清浄機は必要。
 全室に導入するとなると費用は100万円じゃとても足りません」

「なんてことだ! ここで100万円払わないのは、
 将来の消費を見越してのことだったんですね! ありがとうございます!」

「いえいえ、なんのなんの」

医者もちょろいな。
難関大学を出たところで、頭の使い道を勉強にしか使えない頭でっかち。
俺のように頭のキレる人間になら手玉にとれる。

「ふむ、これは使えるかもしれないな」

俺は街に出ると、かわいい女の子に声をかけた。



「やあ、君は僕と付き合わないと、今日中に死ぬよ」

「なに言ってるのあんた。あんたが死ねよ」

立ち去ろうとする女を手で制止させる。

「昨日、雨だったは覚えてる?」

「ええ、ちょっと濡れちゃったし」

ということは、外にいたな、この女。

「君が昨日雨の中にいたせいで水滴が道に落ちた。
 その水たまりに転んだおじいさんが亡くなって、
 怒り狂った遺族は水滴を拭き取らなかった管理者を問い詰める」

「なによ私関係ないじゃない」

「管理者は丸く収めようと、事故でカタをつける。
 でも、納得のいかない遺族は自分たちの手で
 おじいちゃんを殺した水滴を作った君を探す。
 それがあの男なんだよ」

俺の指さした先に、危ない目をした男がいる。

「ひぃ! たっ、助けてよ!」

「ああ、だから僕と付き合うんだ。
 君が僕の彼女になることで、ほかの人はカップルだと思う。
 カップルだと思われれば、当然うらやましく感じる。
 うらやましく感じた人は自分もああなりたいと努力する。
 結果、街コンの開催回数が増えて、あの男から君を人の壁で隠すことができる」

「付き合うわ!」

怖い。
自分の頭のキレ具合が怖いぜ。
これなら、政治家にでも軽くなれそうだ。

まあ、あの男はテキトーに見つけただけの無関係な男だけど。


彼女をその手で抱きしめていると、
ぞろぞろと人が集まってきた。

その目の感じから祝福しに来たわけじゃなさそうだ。

「おい! お前のせいでサンゴが台無しになったんだぞ!」
「よくも俺を睡眠不足にしてくれたな!」
「あんたのせいで猛暑が続いてるんだ!!」

「何言ってるんだよ! むちゃくちゃだ!」

どれもこれも身に覚えなんてない。

「あんたが呼吸をしたせいで酸素が減った。
 酸素が減ったことで水に溶けだす酸素量が減る。
 結果、海中酸素濃度が減ってサンゴが枯れたんだ!」

「あんたがそこで抱き合ってただろ?
 それを見た周りの奴が写真をとってSNSに投稿する。
 SNSで拡散されたことで、俺のケータイに着信音が鳴りまくる。
 そのせいで、俺は不眠症になったんだ!」

「あんたがいるせいで、影ができる。
 影ができたせいで地表の温度が下げられて、
 地面の水が気化しにくくなって熱を奪えない!
 やがて、気温が高くなって猛暑になっているんだ!」


「じゃあどうしろって言うんだよ!? 殴らせろとでも言うのか!?」

最初の男は殴っただけで解決した。
そのときなにかこぼしたような気もするけど、
こいつらの怒りが収まるならそれで……

「賠償金よこせ!」
「慰謝料を要求します!」
「誠意を見せてもらいたい!」

「金かよ!!」

これじゃ俺の金がなくなってしまう。
俺は自分の金を人に渡すのだけは嫌なんだ。

どうする……。

「そうだ!」

こいつら全員、俺が悪いんだと思い込んでいる。
だったらもっと責任転嫁しやすい相手に矛先をズラせばいい。

「いいか君たち! 一番の原因は俺じゃない!」

「「「 なんだって!? 」」」


「サンゴを台無しにしたのも、強引な調査を進めたせいだ。
 睡眠不足なのも、明日への不安から寝つけられないため。
 猛暑が続くのも政府へのデモで人が街に出たせいで、
 空気中の二酸化炭素が増えてしまったからなんだ!」

「それじゃ一番悪いのは……」


「そうとも! すべての元凶は総理大臣なんだ!
 奴がおかしなことをやっているせいで、すべて悪いんだ!」




「や っ ぱ り お 前 か !」

その後、袋叩きにあったあげく金までとられた。
殴られた拍子に自分が総理大臣だった記憶を取り戻した。