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鐘の音が聞こえる

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 大晦日の夜。
 私はコタツに入りながらテレビで国民的歌番組を見ていた。
 こんな伝統的なスタイルで年末を過ごすようになったのは数年前。目の前で幸せそうに年越し蕎麦をすすっている彼と付き合うようになってから。
 彼の部屋は狭いから「コタツなんて置かないでホットカーペットにしなよ」って言ったんだけど、「コタツの無い年末は考えられない」って笑って答えていた。
 ちょっと奮発してエビ天を入れてあげたら目を輝かせて喜んでいる。お蕎麦はただのカップ麺だっていうのに。

「大晦日ってさ、子供の頃でも夜更かしできたよね? だから、今でもなんだかワクワクするんだよなあ」
「そお? 私は大晦日以外でも12時くらいまで起きてたよ」
「ええっ?! 小学生の時だよ?」
「うん。私は自分の部屋でテレビとか見てたから」

 大晦日に限らず、子供の頃でも居間で一家団欒っていうのはほとんど無かった。
 食事だっていつも家族バラバラだったし、父親が仕事人間だったから家族で外に出掛けるということも少なかった。

 でも、彼は必ず大晦日には一家揃って年越し蕎麦を食べてきたらしい。
 東京で一人暮らしをするようになってからも年末になると実家に帰っていた。除夜の鐘を東京で聞くようになったのは、私と付き合うようになってからだ。

 どちらかというとアウトドア派の私は遊びに行こうとかブツブツ文句を言っていたんだけど、今では何の不満も無い。
 あったかいコタツに二人で入りながら、お蕎麦とかミカンとかを食べてノンビリとテレビを見る。
 目の前に彼の優しい笑顔がある。


 他に何か望むものがあるだろうか。



作品名:鐘の音が聞こえる 作家名:大橋零人