タイムリミット赤ちゃん
「顔を、顔を見せてください」
「はいどうぞ。元気な女の子ですよ」
親の元に赤ちゃんが渡された。
赤ちゃん、というにふさわしいほど体は真っ赤。
18:000:00
「あの……これは?」
赤ちゃんにはタイムリミットがついていた。
08:306:11
10歳になると、リミットの意味がわかってきた。
私の体に刻印されているこのリミットは寿命らしい。
残り8年と306日11時間。
つまり私は18歳のときに、リミットが来る。
「時子ちゃん、お医者様にいきましょう。
きっと手術かなにかで取り外したりできるはずよ」
お母さんの言われるまま手術をすることに。
手術がはじまり、私から見える医者たちの顔色で
なんとなく「ああ無理なんだな」とわかった。
術後、先生は暗い顔で告げた。
「ま っ た く わ か り ま せ ん」
「ですよねー」
「このリミットは心臓と連動しているので、
取り外すこともできませんし解除することもできません。
爆発すればいったいどうなるか……」
「爆発するんですか!?」
「はい、体内にはそれらしきものがありました」
看護師が一気に後ずさった。
病院を出てからも、周りの人たちは私を避けた。
爆発するのはまだ先なのに。
「時子ちゃん、何があってもお母さんは見捨てないからね。
お父さんと離婚した日から一生面倒見るって約束したもの」
01:110:03
17歳になると友達もできた。
中学生のころは爆弾の事実を隠そうとしても、
必ずバレて友達が離れたこともあり、高校生では隠さないようにした。
「時子ちゃん、私ずっと友達だから!」
「時子ちゃんになにがあってもずっと一緒だよ!」
「だって私たち親友でしょ!」
「みんな……! ありがとう……!
わたし、わたし、みんなに会えて本当によかった!」
友達と抱きしめ合い、人の温かさが身に染みた。
私の寿命は残り1年110日3日しかないけれど、
こんなにやさしい人に出会えて本当に幸せ者だ。
00:009:16
残り9日16時間。
「来ないでよ!! もし暴発したらどうするの」
「ちょっと優しくしただけで勘違いしないでよ」
「可愛そうだからかまってあげただけじゃん!」
「みんな、親友じゃなかったの!?
ずっと一緒にいてくれるんじゃなかったの!?」
「「「 そんなわけないでしょ! 」」」
リミットは着々と進んでいる。
でも、私が転んだ拍子に暴発する可能性もある。
一緒にいる時間が長ければ長いほど、
その危機感にさらされるストレスは増えるのだろう。
一度は私に近づいてくれた人も、
時間経過とともに命が惜しくなって離れてしまった。
00:001:05
爆発まで、残り1日と5時間。
「ここは……」
"政府が君のために用意したシェルターだよ"
シェルターなんて耳触りがいいけれど
実際は私を隔離するための場所だとわかるって。
特注強化ガラスの向こうで、お母さんが必死になにか訴えていた。
00:000:02
残り2時間。
隔離室のドアが開いてお母さんが入ってきた。
「時子!!」
「お母さん!?」
「時子、ひとりにしてごめんね!
怖かったよね! 心細かったよね!?」
「お母さん、ちょっと苦しいよ……」
「お母さんはどんなことがあっても、あなたを見捨てないからね」
「お母さん……!」
私のことを心配してくれる人が1人いる。
それだけで、私は18年生きていてよかったと思える。
00:000:01
ガラスの向こうで、知らない男が入ってきた。
男はマイクを取ると、隔離室に語りかける。
"母実、やっぱり君が好きだ!
バツイチ子持ちなんて気にするもんか!"
「浮男……!」
え、なにこの展開。
"どうせ子供もいなくなるんだろう?
だったら僕と娘の間でトラブルの心配もないし
僕と母実で新しい家庭をイチから作ることができるよ!"
「…………そうね」
「ちょっとお母さん!?」
母は隔離室のドアにかけよると死に物狂いでドアを叩いた。
「出してえええ!! お願い!! ここから出してぇぇ!」
隔離室のドアが開くとお母さんと男は抱き合った。
なんかもうキスとかしてるし。
なにこの人生。
どいつもこいつも……。
"時子ちゃん、早く爆発してすっきりしてね!"
すっきりしたいのは、あんただろ!!
00:000:00
リミットが来た。
体の中でなにかがはじける音がはっきり聞こえた。
「……あれ?」
爆発しない。
隔離室を見ていた人もぽかんとしている。
ただのイタズラだったのか。
事態を飲み込めないままでいると、
隔離室に怒り狂った元母親が入ってきた。
「ちょっと! ちゃんと爆発しなさいよ!」
「そうだ! 君が爆発してくれないと
僕らの新たな門出ができないじゃな……うぐっ!」
隔離室に入った二人は倒れて動かなくなった。
外で待機していた専門家たちの慌てる声が、
スイッチ入れっぱなしのマイクから漏れ聞こえてきた。
"隔離室内で猛毒ウイルスを確認!
体内の爆弾はウイルスだったんです!
もう彼女は歩くウイルス兵器です!"
それを聞いた私は隔離室を飛び出した。
「待て! いったいどこへ行くつもりだ!!」
引き止める専門家たちに、私は笑って答えた
「友達に会いに行くんです」
作品名:タイムリミット赤ちゃん 作家名:かなりえずき