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熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
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月のあなた 下(4/4)

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☽ 古の月(齢不明)一



「すまんな、こんなものしかなかった」

 その白い石を差し出すと、姫は子供の様にはしゃいだ。

「ああ、これくらいのこういう石が欲しかったんだ。色も、大きさも、貝の様な形も、全部良い」
「そ、そうか? お前なら、もっと高価な宝玉を、沢山持ってるだろう。俺が、山の沢で探して来たようなのじゃなくて」

 我ながら、素直ではない。どうしてこのような物言いになってしまうのか。

「山の沢?」

 だが姫はきょとんとすると、それから目を伏せて両手の指で石を弄り始めた。

「…そなた、朝来ないと思ったら、これを探しに山まで行ってたのか」
「わるいか。そのあたりの沢は、翡翠を産すると聞いたことがあったんだ。白玉しか、なかったが」

「――ばか」
「なんだと」
「これは、わたしのものだな」
「は?」
「これは、お前がくれた、私のものだな!」
「あ――ああ」

 姫はくるりと銀の髪を浮かせて回り、その白玉を紅葉に透かした夕日にかざすようにすると、「う~…!」猫の様に目を細めた。
 そして、砂利石の庭に掘ってあるくぼみの、小さな穴の上に、その石をちょこんと乗せた。

「水かけ石を置いて…これで完成だ」

 それから、そのくぼみに木の蓋をし、木の蓋の上に、また砂利を敷く。

「聞けるのはお前と私だけだぞ、聞かない時は、仕舞っておくからな」

 姫はあらかじめ桶に組んであった水を掬うと、その上に流し、それから地面に寝転がって耳を付けた。

「何をやってる。お前も寝転ぶんだ」

 渋面を作ったが、姫は許さなかった。
 隣に横たわったとき、彼女の手が静かに重なって来た。
 目を閉じた。

 そうして、その音が聞こえて来た。


                              (了)