月のあなた 下(4/4)
蜜柑が呆然として立ち尽くす前で、三石は咳き込みながらスカートをはたく。
「こほっ、なんでぜんぶ窓あけてるのよ、ぺっ、ぺっ」
神は お前を見て
涙が一筋流れた。
その瞬間、なぜか恐怖は消えていた。
蜜柑は、三石の曲がった小さな背中を見て思った。
この人は――ううん、この人も。
(恐れるに、値などしない。)
蜜柑は大きく息を吸い、
「…わるいんだけど」
そして、花が咲くように微笑んだ。
「ないっ!」
「え?」
三石は顔を上げると、耳を疑うように、聞き返す。
「だから、時間、ない!」
蜜柑はもう一度はっきりと言い切った。
三石は戸惑いと、そして怒りのようなものを瞳に点した。
だが、蜜柑は一歩もたじろがなかった。
その静かな瞳に、三石の方がわずか震えたとき、
「あー、みかんちゃんいた!」
「ひなちゃん!」
待ちきれなかったのか、階段に日向が来ていた。
「ご飯いこー!」
ぶんぶんぶん、と音がしそうなほど大きく手を振ってくる。
「はーい、じゃね、みついしさん!」
蜜柑は手を振ると、日向の方へと駆け出した。二人は自然に、手をつないで走り去る。
三石は、呆然とたたずんでそれを見送る。
「…えぇ…?」
作品名:月のあなた 下(4/4) 作家名:熾(おき)