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熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
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月のあなた 下(4/4)

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 蜜柑が呆然として立ち尽くす前で、三石は咳き込みながらスカートをはたく。

「こほっ、なんでぜんぶ窓あけてるのよ、ぺっ、ぺっ」
 
  神は お前を見て

 涙が一筋流れた。
 その瞬間、なぜか恐怖は消えていた。
 蜜柑は、三石の曲がった小さな背中を見て思った。
 この人は――ううん、この人も。

(恐れるに、値などしない。)

 蜜柑は大きく息を吸い、

「…わるいんだけど」

 そして、花が咲くように微笑んだ。

「ないっ!」
「え?」

 三石は顔を上げると、耳を疑うように、聞き返す。

「だから、時間、ない!」

 蜜柑はもう一度はっきりと言い切った。

 三石は戸惑いと、そして怒りのようなものを瞳に点した。
 だが、蜜柑は一歩もたじろがなかった。
 その静かな瞳に、三石の方がわずか震えたとき、

「あー、みかんちゃんいた!」
「ひなちゃん!」

 待ちきれなかったのか、階段に日向が来ていた。

「ご飯いこー!」

 ぶんぶんぶん、と音がしそうなほど大きく手を振ってくる。

「はーい、じゃね、みついしさん!」

 蜜柑は手を振ると、日向の方へと駆け出した。二人は自然に、手をつないで走り去る。
 三石は、呆然とたたずんでそれを見送る。

「…えぇ…?」