明日、わたしは事故ります
「……先客がいるのか」
しばらく待合室で待っていると、
男がひとり出てきた。
「それじゃよろしくお願いします」
「はい、事故予約、承りました」
営業は、男を見送ってから俺に声をかける。
「お客さま、中へどうぞ」
俺は促されるままに事故予約保険の中へ入る。
「この保険は未来に事故を予約してもらい、
未来に事故に遭えば保険金をお渡しするんです」
「事故は起きるんですか?」
「起きますよ、必ず。ひとつだけ注意があります」
営業は指をぴんと1本たてた。
「よくいらっしゃるんですが、ちゃんと事故に遭ってくださいね」
「……は?」
意味はよくわからなかったが3日後に事故予約をした。
これで3日後に大量の金が手に入るわけだ。
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『車にひかれた男性が搬送先の病院で亡くなり……』
『落ちてきた鉄骨の下敷きになりそのまま……』
『自宅で感電した女性が意識不明の重体で……』
事故当日。
テレビのニュースでどんどん怖くなっていく。
このまま普通に事故に遭って大丈夫なのだろうか。
"事故を予約した"とはいっても
"命の安全まで予約"はしていない。
そんな項目はない。
もし、死んだら……?
死ななくても植物状態になったら……?
「金なんてもらっても意味ないじゃないか!!」
やめよう!
やっぱりキャンセルしよう!!
慌てて事故予約保険会社に連絡する。
「もしもし! 事故予約をキャンセルしたいんです!」
『いいですよ』
ああよかった……。
『キャンセルには200万円必要です』
「にっ、200万!?」
俺が事故で手に入れるはずの金じゃないか!
「そんな金額用意できるわけないだろ!」
『だったら、ちゃんと事故に遭ってください』
「……無事なんだよな? 大丈夫なんだよな?」
――ブチッ。 ツー…ツー…
「くそっ!!」
あの様子じゃ、俺の安全までは保障できてないんだ。
死んでたまるか。
事故ってたまるか。
金をなんとか用意して保険会社に向かう。
外に出ると、車が来ていないか確認する。
自転車が来ていないか、頭上は大丈夫か。
男がひとり歩いているけど、
まさかこいつに刺されるなんてことはないだろう。
「よし、大丈夫……」
キキキーーッ!!!
安心した矢先。
ものすごい勢いで車が突っ込んできた。
「来たっ!」
車の軌道を読んで、思い切り前に跳ぶ。
暴走した車は俺のわきをすり抜けてしまった。
「やった!! 事故をかわしたぞ!!」
ドカァッ!!
俺がかわした車は、そのまま後ろの男をはね飛ばした。
「うそ……!?」
男はうまく受け身を取ると、
血を流したまま俺の方にやってきた。
「お前のせいで事故にあったんだ! 慰謝料よこせ!!」
「あ、あんたは確か……」
「慰謝料は200万だ!! すぐ用意しろ!!」
そいつは、最初の事故予約をしていた男だった。
俺は男にキャンセル料200万円を支払った。
「へへへ、やった! こんな簡単に金が手に入るなんて!」
男は金を抱いたまま病院へと運ばれた。
その後、目を覚ますことはなかったらしい。
作品名:明日、わたしは事故ります 作家名:かなりえずき