穴フィラキシーショックのバツイチ結婚
「俺は結婚しません」
「未婚の男はいつまでも出世できないんだぞ?
家族を管理できる人間こそが、人の上に立てるってもんだ」
「だったら、出世なんていりません」
俺は決めていた。
結婚なんてするもんか。
「どうして、そんなに結婚したくないんだよ」
「俺は結婚アナフィラキシー病なんです」
上司は目を丸くする。
「アナフィラキシーって、ハチとかに刺されるとなるやつか?」
「はい、俺は二度結婚すると死んでしまうんです」
「でもよ、この強制結婚世界でいつまで未婚を隠せるか……」
「わかってます。一度でも結婚してしまえば情報が漏れて、
必ず俺は強制結婚させられてしまいます。
だから1度でも結婚するわけにはいかないんです」
「出世を犠牲にしても?」
「出世を犠牲にしてもです」
もうかれこれ数十年。
強制結婚世界で必死に未婚を隠してきていた。
今の仕事も気に入っているし、
このままこの生活が続けばこれ以上の幸せはない。
が。
ある日、上司が俺に土下座してきた。
「頼む! 取引先の娘と結婚してくれ!」
「言ったはずです! 俺は結婚しないと……」
「このままじゃ会社はつぶれてしまうんだ!
でも、取引先の娘と結婚してくれるなら合併してくれると……。
勝手な話だとはわかってる! 頼む!!」
俺も仕事を失うわけにいかなかった。
会社のために結婚してしまった。
相手の社長令嬢は……。
「ちょっと、のどが渇いたわ」
「ねえ、なんか退屈だわ。旅行に連れてって」
「この家飽きたから引っ越しましょう」
めちゃくちゃな女だった。
美人ではあれど、性格面でかなり問題があった。
「がまんがまん……離婚したら、今度は強制結婚させられる。
そうなれば、俺はアナフィラキシーで死んでしまう……」
「なにブツブツ言ってるのよ! 早く食事用意しなさいよ!」
離婚したい理由はすでに100項目を超えてもなお、
俺は必死に結婚にすがりつづけた。
そんなある日。
「離婚しましょう」
妻から俺に死刑宣告がなされた。
「りりり、離婚!? なんで!?」
「パパの会社が業績悪化したみたいなの。
で、もっと大きな会社に吸収してもらおうと
私が相手と結婚しなくちゃいけないから離婚するの」
「それじゃ、俺から別の人に乗り換え……」
「ま、あんたには飽きてきたしね」
俺は必死に妻に抱き付いた。
こんな女好きでもなんでもないけれど命は惜しい。
「頼む! 別れないでくれ! お願いだぁ! 死にたくない!」
「ちょっと! SP! こいつを引き剥がして!」
屈強なマッチョメンになんなくはがされると、
そのまま力技で離婚させられてしまった。
「さようなら、あんた、使用人としてはまあまあだったわ」
しかし、会社はものの見事につぶれた。
元妻が、相手先の会社に求婚したものの失敗したらしい。
ざまあ。
「って、こっちはそれどころじゃねぇよ!!」
結婚→離婚により、俺の情報は市役所に出てしまった。
このままだと勝手に強制結婚させられてしまう。
そうなれば、アナフィラキシーで俺は……。
――コンコン
『結婚市役所のものですが』
「ひいぃ!!」
『ドアを開けてください。
早く結婚しないと、あなた処刑されますよ』
どうするどうする。
いったいどうすれば。
『では、強制的に入ります』
ドアがめきめきと音を立てて壊される。
『さあ早く結婚するんだ!!』
「じっ、実は俺はゲイなんだ!!」
『えっ……!?』
結婚アナフィラキシーは2回目の結婚で発症する。
でも、同性同士での結婚は、俺はまだ0回。
『そうだったんですか、では日を改めます』
役人は立ち去った。
「いやぁよかったよかった」
後日、役人は結婚相手を連れてきた。
「君がゲイだったなんて驚いたよ。
これからは、仲良くしていこう」
取引先の社長はにこりと笑った。
会社は大手と提携し安定したアッーー
作品名:穴フィラキシーショックのバツイチ結婚 作家名:かなりえずき