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万丈(青猫屋玉)
万丈(青猫屋玉)
novelistID. 5777
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108家族2

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 でも、それだって僕とってはの話である。こう視線をくれてもらっては隣の人は落ち着かないだろう。
「じゃあ、僕はあっちから行くよ。青木くんは正面から行くといい」
「え、なんでだよ」
「僕の隣は色んな人に見られるから、居心地悪いと思うよ」
「一緒に来た友達とこんなとこで別行動よりよっぽどいいよ」
 ほら行くよ、と青木くんは僕を手招いた。
 なんでもない事みたいにひらひらと彼の手が揺れている。大きな手だった。今背丈は変わらないけれど、もしかしたら追い抜かされるかもしれない。
「ライム?」
 僕は、いっそ奇異の目で見られる事に慣れていた筈だった。でも、僕や、僕の家族でない人たちにとってしてみれば、そんな目で見られる人がいる事自体、おかしなことだった筈だ。
「ああ、うん」
 僕は、青木くんが自然な事に驚いていた。僕は手招かれるまま駐輪場の出口まで向かった。
「多分、君は覚悟をしておいた方がいいんだ。中学校は全校生徒600人だった。ここは県内にたった二つの農業高校だよ、6学科で1200人の人間がいるんだ」
 青木くんは前を向いたまま喋る。僕らが歩く先で、さっと校舎の影に隠れた野次馬が見えた。そうだ、野次馬が湧いたのだ。小学校の時も、中学校の時も。小学校の時はただ驚いて、中学校の時は逃げ出したくて、今年僕はあきらめていた。
「中学校以上の騒ぎになるよ。人がいるってそういう事だろ。確かにこれって異常だよ。君ってもの凄く見た目がいいんだ。なんでだか、そうなんだ」
 校舎裏の駐輪場から出て行く。昇降口へ続く広い前庭とロータリーがある。沢山の人が溢れている。歩けば視線が寄ってくる。
 視線の中を飄々と青木君は歩いていく。目が合えば彼らしく笑う。近づいた人にはおはようと告げる。初対面でも、その目が僕にあっても、返事がなくてもおかまいなしに、いつものように。
 中学校の時の委員長は、誰にでも当たり前におはようと言える子だった。
 昇降口の前に張り出されたクラス分けの張り紙を見て、同じクラスだと喜んでくれた。
「同じクラスなんだ」
「うん。一年間どうぞよろしく」
 青木くんが笑うと、口角だけがにゅう、と上向く。
 中学校にいたとき、僕は随分居心地が悪かった。僕はなにもしていないけれど、バスケ部の先輩は僕を巡って大げんかをしていたし、ちょっと仲良くなった同級生は彼の好きな女子が僕に告白をしてから疎遠になった。女子も男子も僕の姿形に勝手に夢を見て勝手に夢破れていた。頻繁に変質者にねらわれる僕を先生たちは煙たがった。
 僕はただ作り笑いをして毎日をやりすごしていた。誰とも関わり合いになりたくなかった。帰宅して同じ顔の妹と弟と犯罪者みたいな顔の父親に囲まれてようやく息をついた。
 青木くんとも卒業式の日くらいしか話した事がなかった。すごくもったいない事をした。彼をさえ、僕は距離を置いていたのだ。
「どうぞ、よろしく」
 僕は彼みたいに笑えただろうか。
 それでも彼がうん、と頷いたから、僕はクラス分けの張り紙を背にした。沢山の人がいた。みんな僕からちょっと距離をとって、僕を見ていた。
 僕はお辞儀をした。
「鹿山来夢です。どうぞよろしく」
 返事がなくったってかまわなかった。僕は挨拶をした。
 しばらくざわつくだけだった生徒の中から、ひょい、と顔を覗かせた子がいた。
 褐色の肌に、くるくるの髪をして、大きな鼻と分厚い唇を持ち、太い眉毛の下でどんぐりまなこをきらきらさせていた男子生徒だった。みんなより頭ひとつ分大きい。
「高橋ルカです、畜産科一年生! どうぞよろしく」
 顔に似合わない流暢な日本語の発音、バスドラムみたいな声をしていた。人の向こうからずんずんとやってきて、グローブみたいな手で僕の肩を叩いた。頭越しに青木くんとも笑いあう。
「きみは?」
「青木誠一郎、造園土木だよ」
「青木、青木、せいちゃんって言われていただろ」
「青木くんは委員長って言われていたよ」
「小学校の時はせいちゃんだったんだよ」
「オレもそう呼んでいい?」
「もちろん。高橋君は何組?」
「多分おんなじ。ほら、2組」
 背の高い彼はひょいとクラス表の高いところを指さした。
 僕は青木くん、せいちゃんと顔を見合わせ、高橋君、じきにルカ! と怒鳴りつける事になる子の顔を見上げた。
 くっきりとした二重のルカのチョコレート色の目蓋にはらくだみたいにまつげがいっぱい生えていた。
「じゃあ、我らが2組に参りますか」
 せいちゃんがそう言って、ひゅうんと昇降口に駆けだした。油断した。長距離走者は短距離も案外速い。ルカも長い足でたったと追いついてしまうので、僕も慌ててその後を追った。
 
END

 この高校は畜産、造園土木、バイオサイエンス、農業ビジネス、農業、食品の6科があり、1年は学科をまたいだクラス分けで共通学科と普通学科を学び、2年以降各学科の専門クラスに振り分けられる。
 
作品名:108家族2 作家名:万丈(青猫屋玉)