珈琲日和 その20
爽やかな秋空が覗く窓を背に、気持ちよく笑う先生につられて笑いながら、そう言えば、母の夢は何だったのだろうと思いました。いくら記憶を手繰ってみても、どうしても母との思い出自体が少なく、母が自分の事を語っていたような記憶が見つからないのです。なので残念ながら、僕には母の夢がわかりません。わかりようがありませんでした。ただ、一つわかっていた事は、母はいつも何不自由なく平和に暮らしたいと願っていたような気がします。だからこそ、自分の事よりも僕を、僕との生活を守ろうとしていたのかもしれません。
彼女が母親の夢を叶えてやりたいというのなら、僕が母ちゃんにやってあげられる事はこうして、ここで店を営んでいく事のような気がします。母ちゃんが望んだであろう、穏やかで平和な、幸せな暮らし。僕の店に、こうしてわざわざ足を運んで下さるたくさんの素敵なお客様。そのお客様の人生に、一部也とも関われる事の幸せ。大切な人との絆。切れる事ない想い。そして、様々な人達に支えられて助けられながら幸せを頂いている僕。僕はそんな毎日を維持し続け、なにがあっても諦めずに生きていくのが母ちゃんへの親孝行のような気がしました。
気付くべき幸せな事は、思いの外たくさんあるようだよ・・・僕は先生のブレンドをお煎れしながら、遥か彼方の地にいる彼女に想いを馳せました。
僕の営む小さな喫茶店は、奥まった路地に入ってすぐの所にございます。
様々な世代の様々なお客様がいらっしゃいます。
お出しする珈琲は選り取りみどり。拘りを持っているものばかりでございます。
お時間がありましたら、是非、一度お立ち寄りください。
きっと、良きにしろ悪きにしろ、何かしら実りある一杯をお召し上がり頂けると思います。