小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

グングニルおばあちゃんと運動会

INDEX|1ページ/1ページ|

 
おばあちゃんがグングニルを持ってきた。

「……おばあちゃん、どうしたのそれ?」

「ヴァルハラに現れし魔界の狂犬フェンリルにより
 ユグドラシルに守られしユグドラシルへと向かった
 フレイヤの御子をこのグングニルで救いラグナロクを防げる


 ……と、3丁目のオーディーンから受け継いだ」

「3丁目のおじさんだよね!?
 去年、奥さんに逃げられた独身(52)の人だよね!?」


「それでも、明日のラグナロクだけは防がないといけない」

「私は明日の運動会の方が心配だよっ!!」

私の両親は共働きで忙しく家にいない。
いつもおばあちゃんに両親のかわりに保護者として
運動会には来てもらっていたが……。

「ニヴルヘイムの御子はヴァルハラに……」

こんな神話テイストなおばあちゃんは嫌だ。

「それじゃ、私もう寝るから。
 おばあちゃんもその槍ちゃんと返してきてよ?」



運動会当日の朝。
起きると1階の電気がつけっぱなしだった。

「おばあちゃん!? まさかずっと起きていたの!?」

テーブルに並んだおびただしいエナジードリンクの数。
ここでグングニルとともに徹夜をしていたに違いない。

ただでさえトイレ近いのに!

「いつラグナロクが発動するかわからないから……」

「しかも、槍返してきてないし!」

「オーディーンは冥界に行ってしまったので」
「暗くて道わからなかっただけでしょ!」

今からじゃもう間に合わない。

「……とにかく、運動会にはその槍持ってこないでね」

と、朝キツく言い聞かせたはずなのに。



「ねぇ、あのおばあちゃん何もってるの?」
「競技に使うものじゃないよね?」
「あれ、だれの保護者?」

「うう……持ってこないでって言ったのに……」

おばあちゃんはグングニルを持ってきた。
観覧に来ている隣の家族の犬も、
おばあちゃんの放つ神々しさにおびえている。


『それでは運動会をはじめます』


おばあちゃんの悪目立ちそのままに競技がはじまった。
午後の部が始まったころには、
下腹部に違和感……はっきり言えば尿意を感じた。


「うう……がまんがまん……」

だいじょうぶ、競技はあとひとつ。
なんとか耐えられればもう大丈夫なはず。


『最後の競技はなわとびです』


「え゛……」

終わったぁぁぁ!!
こんな状態で小ジャンプしたら間違いなく……。

「ごめん、トイレ!!」

慌ててトイレに走ると、
トイレから延びる蛇のような列、列、列。
ここに並んでいたら競技には絶対間に合わない!


「かくなるうえは……」

この学校にあるひときわ大きな木陰。
人通りも少ないあの場所なら。

今からならぎりぎり間に合う!


急いで向かうその途中に、
最悪のタイミングでソレに出くわした。

「ウウ~~ワンワン!!」

「ちょっとどいてよぉ! 犬ニガテなんだからぁ!」

保護者席にいた犬がリードをほどかれて放し飼いに。


『まもなく、なわとびが始まります。
 生徒のみなさんは持ち場についてください』


「お願い! 道を開けてよぉ!」
「ワンワン!! ウウ~~ワン!」

なんでこんな狂犬運動会に連れてくるのよぉ!


そこでハッとした。


"ヴァルハラに現れし魔界の狂犬フェンリルにより
 ユグドラシルに守られしユグドラシルへと向かった
 フレイヤの御子をこのグングニルで救いラグナロクを防げる"


ヴァルハラって運動会……木陰がユグドラシルで、
フェンリルがこの犬なら私がフレイヤの御子……。
ラグナロクは……


「フレイヤの御子!! 伏せなさいっ!」


後ろから聞こえたおばあちゃんの声にとっさに従う。


「そいやぁぁ!!」

かつて槍投げ選手として国体に出た投槍フォームそのままに、
おばあちゃんは持っていたグングニルをぶん投げた。

ヒュオッ!!

鋭い風切り音とともに、空気を切り裂くグングニル。
グングニルは犬の近くの地面に突き刺さった。

「キャワン!」

おばあちゃんの剣幕と槍に驚いた犬は逃げてしまった。
さっさと用を済ませると、おばあちゃんに感謝した。

「ありがとう、おばあちゃん!!
 おばあちゃんのおかげでラグナロクは防げたよ!」

おばあちゃんは、
聖母マリアのような慈愛たっぷりな笑顔で返した。




「いいえ、ラグナロクは防げなかったわ」

おばあちゃんのズボンはぐしょぐしょになっていた。