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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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俺も車にひかれてぇぇぇぇ!

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「俺さ、子供のころ車にひかれてさ」
「私、一度感電して気を失ったの」
「拙者は一度ハチにさされてアレルギーで」


「うらやましい!!」

なんでみんな事故に遭っているんだ!
俺も事故に遭ってみたい!

「なら、ここ行ってみれば?」

友達から渡されたパス。
そこに書かれていたのは……。



「ハハッ♪ 事故シミュレーションランドへようこそ♪
 ここでは、好きなだけ事故の体験ができちゃうよ」

ランドの中にはたくさんの装置がある。
車に、自転車、階段にと事故体験やり放題だ。

「でも本当にケガとかしないんですか?
 もちろん、このランドにいる以上は絶対にケガしないよ。
 安心して楽しんでね! ハハッ♪」

「なるほど!」

さっそく、車にひかれる体験をすることに。



キキーーッ!!
ドカァッ!!


ふわりと体が浮かんで、激しく地面にたたきつけられる。
でも、かすり傷ひとつできない。

それよりも……。

「た、楽しぃぃぃ!!」

一瞬、脳裏をチラつく死の恐怖と起き上がったときの生きてる実感。
こんな体験、ほかじゃできない。

「今度は階段から落ちてみよう!」

ドガガガッ。

「ようし、次は地震だ!」

ゴゴゴゴゴ……!

「今度は感電だ!」

ピシャァンッ!!



ひとしきり遊び終わるとすっかり大満足。
それからというもの、毎日ランドに通うようになった。

あのゾッとする感覚を味わいたい!

「ハハッ♪ 今日もありがとう♪」

「今日もたっくさんスリルを味わうぞぉ!
 手始めにいつもの車事故体験だ!!」


キキーーッ!!
ドカァッ!!


「……あれ?」

もう一度。


キキーーッ!!
ドカァッ!!


「……こんなだったっけ」

今度は階段から落ちる体験だ。

ドガガガッ。

「なんだろう、この満たされない気持ちは」

前まではあんなに怖くて楽しかったのに。
何度も通いすぎたせいで恐怖になれてしまったんだ。

「ハハッ♪ 浮かない顔をしているね。
 いったいどうしたんだい?」

「事故ッキー……」

俺は事故ッキーに洗いざらいすべてを話した。
最初のころのような新鮮なスリルに飢えていることを。


「ハハッ♪ そろそろ言い出すころかと思っていたよ」

「この状況になることわかっていたのか?」

「ハハッ♪ もちろん。君のようなスリルジャンキーはいっぱいいるからね。
 そんな人が一度で満足しちゃうスリルがあるんだよ」

「い、一度で!」

それはどんな楽しい事故体験なんだろうか。
電車にひかれる? 隕石直撃?
ああ、なんにしてもこれまで以上のスリル、楽しみだぁ。

「ハハッ♪ さあ、ついてきて」


草木をかきわけ、一般客が絶対にわからない裏通りを進む。
森の奥にあったのは小さな小屋だった。


「……え、これ?」

「ハハッ♪ そうだよ、名付けて『ハハッ♪ の屋敷』かな。
 ここではランドで一番の恐怖を体験できるよ」

「本当に?」

見る限り大がかりなしかけもなさそうだし、
ほかの事故体験の方がずっと恐怖を味わえそうなものだけど。

いやいや!
見た目に惑わされるな!

きっと小屋の中には思いもしない面白環境が……。


「ケー……タイ?」


小屋には新しい事故体験をくれそうな機械も、
大がかりな装置もなければなにもなかった。

「事故ッキー! ふざけているのか!
 こんな小屋で俺が命の危険感じられるわけないだろ!
 だって、ここにはケータイしかないんだから!」

「ハハッ♪ ……によって恐怖を感じるんだよ」

「なんだって?」


なんにせよ、ここには何も事故の仕掛けがない。
これではスリル満点の恐怖体験なんてできっこないだろう。

「帰る」

俺が帰るその瞬間、小屋のケータイが鳴った。
思わず電話に出てしまう。



『もしもし!? 今、あなたのお母さんが事故に……!』


俺はこれまでで一番の恐怖を感じた。





『母ッ♪の屋敷、怖かったかな?』