俺も車にひかれてぇぇぇぇ!
「私、一度感電して気を失ったの」
「拙者は一度ハチにさされてアレルギーで」
「うらやましい!!」
なんでみんな事故に遭っているんだ!
俺も事故に遭ってみたい!
「なら、ここ行ってみれば?」
友達から渡されたパス。
そこに書かれていたのは……。
「ハハッ♪ 事故シミュレーションランドへようこそ♪
ここでは、好きなだけ事故の体験ができちゃうよ」
ランドの中にはたくさんの装置がある。
車に、自転車、階段にと事故体験やり放題だ。
「でも本当にケガとかしないんですか?
もちろん、このランドにいる以上は絶対にケガしないよ。
安心して楽しんでね! ハハッ♪」
「なるほど!」
さっそく、車にひかれる体験をすることに。
キキーーッ!!
ドカァッ!!
ふわりと体が浮かんで、激しく地面にたたきつけられる。
でも、かすり傷ひとつできない。
それよりも……。
「た、楽しぃぃぃ!!」
一瞬、脳裏をチラつく死の恐怖と起き上がったときの生きてる実感。
こんな体験、ほかじゃできない。
「今度は階段から落ちてみよう!」
ドガガガッ。
「ようし、次は地震だ!」
ゴゴゴゴゴ……!
「今度は感電だ!」
ピシャァンッ!!
ひとしきり遊び終わるとすっかり大満足。
それからというもの、毎日ランドに通うようになった。
あのゾッとする感覚を味わいたい!
「ハハッ♪ 今日もありがとう♪」
「今日もたっくさんスリルを味わうぞぉ!
手始めにいつもの車事故体験だ!!」
キキーーッ!!
ドカァッ!!
「……あれ?」
もう一度。
キキーーッ!!
ドカァッ!!
「……こんなだったっけ」
今度は階段から落ちる体験だ。
ドガガガッ。
「なんだろう、この満たされない気持ちは」
前まではあんなに怖くて楽しかったのに。
何度も通いすぎたせいで恐怖になれてしまったんだ。
「ハハッ♪ 浮かない顔をしているね。
いったいどうしたんだい?」
「事故ッキー……」
俺は事故ッキーに洗いざらいすべてを話した。
最初のころのような新鮮なスリルに飢えていることを。
「ハハッ♪ そろそろ言い出すころかと思っていたよ」
「この状況になることわかっていたのか?」
「ハハッ♪ もちろん。君のようなスリルジャンキーはいっぱいいるからね。
そんな人が一度で満足しちゃうスリルがあるんだよ」
「い、一度で!」
それはどんな楽しい事故体験なんだろうか。
電車にひかれる? 隕石直撃?
ああ、なんにしてもこれまで以上のスリル、楽しみだぁ。
「ハハッ♪ さあ、ついてきて」
草木をかきわけ、一般客が絶対にわからない裏通りを進む。
森の奥にあったのは小さな小屋だった。
「……え、これ?」
「ハハッ♪ そうだよ、名付けて『ハハッ♪ の屋敷』かな。
ここではランドで一番の恐怖を体験できるよ」
「本当に?」
見る限り大がかりなしかけもなさそうだし、
ほかの事故体験の方がずっと恐怖を味わえそうなものだけど。
いやいや!
見た目に惑わされるな!
きっと小屋の中には思いもしない面白環境が……。
「ケー……タイ?」
小屋には新しい事故体験をくれそうな機械も、
大がかりな装置もなければなにもなかった。
「事故ッキー! ふざけているのか!
こんな小屋で俺が命の危険感じられるわけないだろ!
だって、ここにはケータイしかないんだから!」
「ハハッ♪ ……によって恐怖を感じるんだよ」
「なんだって?」
なんにせよ、ここには何も事故の仕掛けがない。
これではスリル満点の恐怖体験なんてできっこないだろう。
「帰る」
俺が帰るその瞬間、小屋のケータイが鳴った。
思わず電話に出てしまう。
『もしもし!? 今、あなたのお母さんが事故に……!』
俺はこれまでで一番の恐怖を感じた。
『母ッ♪の屋敷、怖かったかな?』
作品名:俺も車にひかれてぇぇぇぇ! 作家名:かなりえずき