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みやざきしんいち
みやざきしんいち
novelistID. 56782
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あのあたりは

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あのあたりは昔、水の流れでできたような谷になっていて、斜面を降りていくとときどきがけがあったりして、子供だった僕たちの冒険心を掻き立てるには、もってこいの場所だった。

実際に水の流れもあって、ため池のような沼のような、湖畔の水中から木が生えているような池から、湧き水のようにその谷を下っていっていた。それがどこに通じていたのか、確かめる気にならないくらい、子供だった僕たちには広い広い谷だった。 谷の先には、国道一号線を通る自動車が小さく見えていた。

うちのそばの魚屋さんで、捨ててしまうイカの肝やら足やらをもらってきては、そのため池のような沼のような水溜りに行って、適当な枝にタコ糸を下げて、結んだイカを投げ込んだ。ザリガニがとれた。ザリガニなんて、大昔からこの池にいる筈もないのでだれかが投げ入れたのだろうけど、それはもう十分に繁殖していて、近くの新聞配達のおにいちゃんも釣りに来ていたりした。

そういえば、広い広い谷で凧揚げもした。お正月はいくつもの凧があがっていた。手作りの凧が高く上がるのが楽しくて、紐を妹に買いに行かせて継ぎ足し、もう見えなくなるくらい高くあげたものだ。

いつごろのことだろう。あのあたりは横浜横須賀道路の狩場インターチェンジになるとの話を聞いた。

晴れた日曜日に「あのあたり」に行ってみると、もう高い鉄柵が張られ、ショベルカーが入り、僕たちの遊んでいた「あのあたり」はなくなっていた。

僕たちの広い広い谷と高い高い空は、なくなってしまった。
作品名:あのあたりは 作家名:みやざきしんいち