自分卒業アルバム授与式
平凡な家庭に生まれて、
平凡な友達に囲まれて育った俺は
平凡な人間になるに決まっている。
だから卒業することにした。
「なになに……ここに記入をすればいいのか」
手に入れたのは『自分卒業アルバム』。
それぞれのページを埋めることで
今の自分から卒業ができるらしい。
「写真まで必要なのか、めんどくさいな」
昔のアルバムを引っ張り出して写真を貼る。
ああ、たしかこれ小学生のときの遠足。
弁当忘れてみんながわけてくれたんだっけ……。
こっちは中学生のときの修学旅行。
意味もなく木刀買ったりしていたなぁ……。
「……今の俺があるのも、この人たちのおかげか」
今の俺の思いやりもやさしさもすべて
友達や家族からもらったものなんだなぁ。
なんか自分卒業アルバム作っているとわかってくる。
「って、なに思い出に浸っているんだ!!
俺は自分を卒業して個性的な人間になるんだろ!」
自分卒業アルバムには最初に次の理想の自分を記入する。
卒業アルバムが完成すれば、理想の自分になれるはずだ。
>誰にも負けない個性を持っていて
>お金持ちでモテモテな人間になりたい
改めて最初の1ページ目を読み直す。
「ようし! ここから一気に埋めてやる!」
ふたたびエンジンをかけてアルバムを完成させる。
最後のページに差し掛かったところで気づいた。
「あれ? ここだけすでに記入されて……」
>新しくなってもずっと友達だからな!
>新しい自分になるの楽しみにしているぞ!
>頑張れよ! いつだって俺は味方だ!
>お前がいたからみんなまとまれた! ありがとう!
「ああ……あああ」
最後のページには大切な人たちからの寄せ書きが書かれていた。
環境が周りが自分を作るというのなら。
今の自分のすべては周りからもらったもの。
なのに、勝手にそれを捨てるなんて……!
「俺は……俺はなんて勝手なことを!!」
どんな自分だって、大事な自分じゃないか。
卒業なんてしない。
俺はアルバムを閉じた。
『アルバム記入ありがとうございます。
これより、自分卒業式をはじめます』
「えっ!?」
まさかアルバム閉じることが合図だったのか!?
アルバムからは光があふれていく。
いやだ、俺は卒業なんてしたく……
「はっ!」
目を覚ますとすぐに自分を思い出す。
友達の顔を、家族の顔を、恋人の顔を。
大丈夫、全部ちゃんと覚えている。
「……あれ? 変わってない」
俺はなにひとつ個性を失っていない!
アルバムは不発だったんだ!
「よかった! よかったぁ!」
安心すると急に感謝を伝えたくなった。
「もしもし、母さん? あのさ……」
『電話する暇あるなら、次期社長のため勉強なさいっ』
友達に電話をかける。
「久しぶり、あのさ……」
『Yo Yo 久しブリ 旬は寒ブリ♪』
「久しぶり! あの……」
『覇王ジャミラスト様の復活の贄となりに来たか』
俺の個性を作ってくれた
みんなのキャラがおかしくなっている。
いったいどうして……。
「……まさか」
自分卒業アルバムは理想の自分を作る。
ただし、変化させるのは俺じゃなくて……
それから俺は、周りに影響され理想の個性を手に入れた。
作品名:自分卒業アルバム授与式 作家名:かなりえずき