月と空
今日は。
声をかけたのは彼女。声をかけられたのはボク。
彼女はボクよりも小さくて、かたくらいの黒い髪。睫毛の長い黒目がちな綺麗な瞳でボクをみていた、見つめていた。
ぷくりと赤い唇が動く。鳥のさえずりのような美しい声、コエ、こえ。
ボクはその唇を目で追う。
彼女はボクに待ったかどうか聞いてきた。
ボクはそんなに待っていなかったし、このくらい待ったうちに入らない。
そんな思いで首をふる。
彼女は少しはにかんで、嬉しそうにした。
そのまま彼女はボクの左側に立って腕をからめてきた。
夏の空のように青いふわりとした生地のワンピースを着た彼女。
ボクたちはお互いの存在を確かめるようにならんで歩く。
言葉は少ない。けれど、
彼女の存在に赦される気がする。こころやすらぐ。
ボクは小さな彼女に歩幅を揃えるように一緒に歩く。
彼女は時々立ち止まって、ボクの目をのぞきこむように話かけてくる。
その一つ一つの仕草が愛おしい。
目を見て思う。
彼女は美しい。
太陽の元でも、月の元でも哀しいくらいに美しい。