84歳からの恋愛治療
生物にとらわれない新しい学校の創設をめざし……
「先生、次の患者さんです」
「ああ、うん」
テレビの電源を来って、仕事スイッチを入れる。
恋愛医療医としてしゃんとしなければ。
「どうも、わたし、ツネといいます」
やってきたのは70代過ぎのおばあちゃん。
「……」
「……」
「おばあちゃん」
「はい、なんですか?」
「高齢科ならあっちの棟に……」
「あら、失礼ね。私はちゃんと恋愛治療に来たんですよ」
おばあちゃんは目を乙女のようにきらきらさせた。
「主人が死んだ今、昔のような燃える恋がしたいの。
先生は恋愛医療のトップだと聞いてきましたのよ」
「まあ……できなくはないですが」
「学校でたくさんしたいんです」
「学校も行ってるんですか!」
まあ、さっきのニュースで年齢制限ない学校も出てきていたし。
恋愛治療におばあちゃんが来るのも当たり前なのか。
「で、先生は治療できるんですよね?」
「ええもちろん。私は一度もウソついたことはありません」
「楽しみだわ」
おばあちゃんをさっそく治療台へと移動させる。
「いいですか、恋愛とは神秘的なものじゃないんです。
脳で化学物質が分泌されているだけの状態なんですよ」
「えっと……?」
「つまり、人と人との恋なんて脳の暴走なんです。
だから化学物質を分泌されやすい状況を作れば……」
治療はすぐに終わった。
「誰でも、どんな年齢になっても恋はできるんです」
「先生、本当にこれで大丈夫なんですか?」
「もちろん。私はこれまで一度もウソをついたことがありません」
「さすが先生!」
治療後からしばらくして、おばあちゃんは戻ってきた。
「先生、治療ありがとうございます。
おかげで、ホラ。私も恋をして新しい彼氏ができました!」
「≠仝¶¨±Ю‰」
おばあちゃんは屈強な体のサイクロプスを連れていた。
「先生の恋愛治療は人間以外にも効果あるんですね!」
「え、ええ、もちろん……」
その日、俺ははじめてウソをついた。
作品名:84歳からの恋愛治療 作家名:かなりえずき