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司令官は名古屋嬢 第6話 『一部』

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「大須さ、大須司令官! 一人で出歩いちゃ危険ですよ!」
その少女は、大須奈菜だった。帽子をしっかり被り、わからないように努力したつもりのようだが、少しでもじっと見れば、彼女だとすぐにわかるだろう……。
「シッ!」
取り込み中である彼女は、上社にそれ以上喋らせなかった。
 静かにため息をつきつつ、周囲を見回す。クレーンゲーム機が何台もずらりと並んでいるため、視界が悪い。この中京都は、この世界では一番安全だとされている。だが、CROSSだけでなく、大須たち中京都軍に恨みを抱く者は、いくらでも身近にいると考えるべきだろう。

「ん?」
案の定というべきか、数メートル向こうにあるクレーンゲーム機の物陰に、30代ぐらいの男が立っており、こちらを凝視をしていた……。その怪しい風貌と雰囲気から、大須の護衛をしている人物でないことぐらいはわかる。
「お、大須さん。ちょっとヤバい感じです」
「ちょっと待って! これで最後なんだから!」
最後の1プレイに望みをかけている大須。確かに、ぬいぐるみの現在位置は、あと少しのところにあった。
「ヤバい!」
怪しい男は、ゲーム機の物陰からさっと飛び出すと、拳銃を構える……。ゲーム機が死角になっていたせいで、拳銃を持っていたことに気づけなかったのだ。

   パンパンパンッ!!!

 男の拳銃から、3発の鉛玉が放たれる。そのうちの1発が、大須の帽子に命中した……。撃たれた衝撃で、彼女はクレーンゲーム機に体をぶつけ、姿勢をぐらりと崩す。
「大須さん!!!」
彼女を介抱する上社。男がさらに発砲してくる危険はあるが、彼にはそれどころではなかった。
「や、やったぞ!」
目的を成し遂げた様子の男は、猛ダッシュで逃走していく。


 ……ただ幸いなことに、その男は店員と勢いよくぶつかってしまった。床にバラバラと散らばるゲーム用コインと拳銃。男は起き上がりながら、店員を乱暴に脇へ押しやる。しかし、拳銃を拾う余裕が無いほどの慌てようだ。
 男は逃走を再開した。しかし、店員との衝突がタイムロスとなり、駆けつけてきた2人の兵士によって、見事取り押さえられた。吹き抜けの通路に、うつ伏せで勢いよく倒される男。捕まったものの、大須奈菜の暗殺という大きな目的を成し遂げられて、満足気なご様子だった……。
「ざまあみろ!!! やってやったぞ!!!」
声を張り上げる男。もう思い残すことはないというほどの嬉しさが伝わってくる。