ウチの爆弾あずかってくれますか?
「あの! これあずかってください!
中身がなくなったら必ず取りに戻りますから!」
タンクトップから見える胸元に
鼻の下をのばしつつ俺の答えは一択だ。
「もちろんです」
「おねがいします!」
女が去ると、気になるのは渡された段ボール。
小さな荷物でも入っているのだろうか。
「なんだろう」
開けてみると、中には爆弾が入っていた。
・
・
・
「無理ですね。これ解除できません」
「えぇ!?」
爆弾処理班がさじをなげてしまった。
「かろうじてわかったのは、
この爆弾はあなたから離すことができないってことです」
「ええええ!?」
おいおいおい。
それじゃどうするんだよ!
「渡されたのなら返却すればいいのでは?」
「それだ!!」
爆弾の解除は極めて難しい。
だったら、女を探す方が簡単だろう。
見つけ出して押し付け返せば問題解決だ。
が。
「そんな女性いませんよ」
「さあ……知らないねぇ」
「まだ事件になったわけじゃないし」
「警察コラーー!」
警察で聞いても通行人に聞いても誰も知らない。
このままじゃ……。
あの女の言葉がどんどん鮮明になっていく。
"中身がなくなったら必ず取りに戻りますから"
「中身って……爆発するってこと……?」
冷汗が流れてくる。
間違いない。
女は爆弾の爆発を待ってから戻るつもりなんだ。
ああ、こんなことなら……。
もっと親孝行でもしておけばよかった……。
ピンポーーン。
「すみません、預けていたもの取りに戻りました」
あの女が戻ってきた。
「えっえっえぇ!? まだ爆発してないよ!?」
「爆発……?」
女はきょとんとした。
「この爆弾は爆発しませんよ? 中身を移すだけですから」
「それならよかった」
念のため、爆弾に耳を当ててみる。
時間を刻むような音は聞こえない。
やっぱりこの爆弾は爆発なんてしないんだ。
「預かってもらえてありがとうございました」
女は深々とお礼をすると去って行った。
「……はぁ、よかった」
女が帰ってひといきつくと、親に電話した。
命の危機にさらされて初めて、
今自分が一番すべきことが分かった気がする。
「父さん、母さん。今までありがとう」
『どうしたの急に。これから死ぬの?』
「死なないよ。ただ、感謝したくて」
電話を切ってベッドに滑り込む。
きっとあの女は俺に人生の価値をわからせてくれたんだな。
俺はそっと目を閉じだ。
チッチッチッ……。
俺の部屋に時計はない。
なのに、秒針が進む音が聞こえる。
「まさか……」
俺は自分の体に耳をすます。
チッチッチッ……。
中身を移すって……。
まさか俺が爆弾に……。
作品名:ウチの爆弾あずかってくれますか? 作家名:かなりえずき