覚めないで、夢
私は大好きなタカシを見つけて、大声で手を振った。周りに人が大勢いるけれど、恥ずかしさなんてない。近距離にいたスーツの男が私をみてぎょっとした顔をしたけど、そんなのどうでもいい。タカシ。こんなに近くにいるんだもの。愛を叫ばせて。
私の声に気づいたタカシがこっちへ向かってくる。タカシ!LOVEタカシ!
タカシは私にウインクする。これがいつもの二人の合図。私たち、年に二度しか会えないけど、心でつながっているんだもの。
タカシはゆっくりと、歩く。くるりとターンしたり、体を揺らしたり私にウインクを投げたりしながら。タカシのその一挙手一投足に私の頭はクラクラしている時だった。
床と平行に手首にスナップを効かせ、タカシは投げた!!私へのラブレター!サイン入りの色紙。
周りにいる女達が、自分への贈り物だと誤解して血眼でタカシが投げたそれをふんだくろうとするが、そうはさせない。私は勘違い女達の群れの合戦に飛び込んだ。少し血を見るぐらいどうってことないの。
「タカシと目がった!」「タカシ絶対こっち見てた!」「タカシに顔覚えられてる!」
Twitterで『タカシ』をキーワードに検索をかければこのように解釈を履き違えた哀れな女どもがたくさんひっかかるの。ふん、あんたたちみたいなブス、タカシに相手にされるわけないのよ。
そう、タカシは人気者。で、あるが故の苦しみを理解してあげられるのはたった一人。私だけなの。眩しいスポットライトを浴びながらキラキラ微笑むタカシ。その笑顔の奥に隠された深い孤独。私にはバレバレだよ、タカシ?抱きしめてあげたい。そんな思いが溢れて、もうどうにも止まらないの。
「タカシ、来月出る新曲のCD、五十枚買うからね。」
部屋の壁に貼った美しくも平らなタカシに、私はそっとキスをする。