かまってちゃんと、病まぬ雨
すでに元恋人となった彼は平らな十三文字でいとも簡単に別れを告げた。
帰宅中の駅のホームにて、呼吸が浅くなっていく。なんで?どうゆうこと?心当たりが全くない。一日二十通のメールのやり取りだってマメにしてたよね?私、マメな女だったよね?仕事で失敗して落ち込んだ時だって、強がらずに甘えて可愛い女だったよね?ねえ?
すぐに彼に電話をかけたが、三コール目の呼び出し音後、ツー、ツー、ツー。その後何度かけてもプー、プー、プー。IPhoneで着信拒否設定すると、拒否した相手には『話し中』と同じ音が流れるという事を聞いたことがある。彼からの最後のメール画面を再度開き、途方に暮れる。
みつめた冷たい画面に、水滴が落ちてきた。雨だ。
降りだした憂鬱の中をとぼとぼ歩く。梅雨時期なので、と鞄の中に常備している折り畳み傘はあえて差さない。雨が降ると駅前に咲く小さな紫陽花が、一段と美しく見えるが、今の私の眼には輝かない。
綺麗な思い出も、涙も、この雨で全部洗い流してほしい。
あとどれだけ流れていけば、彼と過ごした思い出を忘れることが出来るのか。もう少しこのまま。濡れていよう。ずぶ濡れの私を誰かみつけてよ。世界一可哀想な私をだれか。お願い。そう、そこの街ゆく人々。傘を差し、足早に駅へと向かうあなたたち。そう、このずぶ濡れの私、どうなのよ。みて?こっち見て?超無視で通り過ぎないで。結構かわいそうなことになってるよ?
雨足は次第に強くなる。ボロボロだ。もう終わりだ。負けない。人気も段々少なくなってきた。やばい。傘、猛烈に、差したい。いやいや、誰かがこの惨め極まりない私の姿を見つけ、優しい声をかけてくれるまでの辛抱だ。どこかにきっと…。
「あのー、そこの人―!!!」
駅員の男が、屋根の下からこちらに向かって声を上げる。ようやく、この哀れな女に気づいてくれたようだ。私は、渾身の哀愁たっぷりの表情で、彼を見た。
「そ、れ!差せば?」
彼は、私の鞄から飛び出していた折り畳み傘の柄を指さし叫ぶと、私に何の余韻も残さず一目散に駅員室へ去っていった。二人組の女子高生がその一連のやり取りを見て、クスクスと笑いながら私の横を通り過ぎた。
なんとなく、自分が振られた理由がわかった気がして、私はそっと傘を開いた。
帰宅してすぐ、
Twitterに「消えたい、なう」と呟いた。
作品名:かまってちゃんと、病まぬ雨 作家名:konon