レイドリフト・ドラゴンメイド 第4話 遠くなる家路
人は一度に覚えられるのは7人までと言われているから、敵味方含めるとそうなってしまう。
当然小説なら主人公は勝利する。
しかし、召喚する側だって、もう滅ぶかどうかの瀬戸際だからこそ、恥も外聞も捨ててわずかな確率にかけたのではないのか。
実際にやってみれば、召喚された直後に死んでしまう主人公もいるのだろう。
振り返って自分たちはどうだ。
召喚された生徒会は全員帰還。
援軍もたくさん来てくれた。
そして、自分もいる。
両足は、何の問題もなく180キロの体を時速80キロまで加速させてくれる。
猫耳の下からは目を守るゴーグルと、口元を守る面頬が飛び出し、顔を覆う。
面頬はレイドリフトの共通する意匠でもあり、人によって個性を見せる部分でもある。
ドラゴンメイドの面頬は黒い地に、横向きの赤いドラゴン、ボルケーナが描かれたものだ。
3メートルほどジャンプする。
両手は一瞬で着ているシャツのボタンを上から二つ外した。
背中から襟首側に走るレールを通って、達美の体の中で最も精密な部分が飛び出してくる。
折りたたまれていたチタン合金製の2枚の翼。その基部につけられたレーザージェットエンジン。
高性能ジェットパックだ。
そして両腕の動きを強化するフレーム状のパワーアシスト機構。
ガタッガチャッと心地よい音とともにパーツが伸び切り、固定されたのを確認する。
レーザージェットエンジンの中では、レーザーが内部に張り巡らされた鏡に反射されながら、中の空気を加熱、膨張させる。
ドーン!
熱膨張した空気は勢いよく達美の体を押し出す。
時速10キロ、20キロ……1000キロ。
体をまっすぐ伸ばして空気の流れに乗り、たちまち亜音速まで加速した達美は、ボルケーナの上空を旋回し始めた。
ゴーグルの中の目、ハイパースペクトルカメラは、遠赤外線で周囲を探る。
遠赤外線は、ちょっとした物や霧などへの透過能力に優れ、熱を出す者を探知しやすい。
ベルム山脈の地下に築かれた施設。
それはトンネルや基地だけではなかった。
「ミサイル基地、確認」
基地に動きがある前に、達美は武産の予言を根拠にターゲットを登録する。
テレパシーを受け取ることができるのも、猫の脳を持っている強みだ。
達美の情報がきっかけで、PP社が動き始めた。
ドラゴンドレスの照準システムが、巧妙に隠されたミサイル基地に向けられる。
応隆がメールで。「ミサイルが発射された際は射撃せよ」と命令する。
だが、これで解決するわけではない。
(何とかしてよ。お兄ちゃん)
達美がそう、すがる思いで見ると、書記長の乗る装甲車では応隆たちが再び乗り込んだドラゴンドレスで、はりついて呼びかけていた。
『今、山の基地から何かの軍用暗号が発信されましたね?
これはなんです? 』
だが、車内からは応えはない。
『社長! こうなったら運んじゃいましょう!
俺達の控室まで! 』
周りでみていた2体のドラゴンドレス・マーク6が、強引に装甲車を運び始めた。
彼らにも武産の予言は届いているはずだ。
それでも、車の中からは返答はない。
突然、森の中に熱源が現れる。
山肌に仕掛けられた爆薬に火がともったあかしだ。
土が飛び、煙の中からミサイルを守るハッチが見えた。
数は1…2…3、4、5。武産が予知したとうりだ。
ハッチせり上がる。
「どのタイミングで発射されるから、私は知ってる!
それに合わせて撃って! 」
そう、この国の兵器に追われることが、彼ら魔術学園生徒会の冒険の始まりだ。
達美はその時の経験をもとに、カウントダウンタイマーをセットした。
数秒後、ハッチの奥から高い熱エネルギーがせり出してきた。
振動が木々を揺らし、ミサイルがやって来る。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第4話 遠くなる家路 作家名:リューガ