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レイドリフト・ドラゴンメイド 第4話 遠くなる家路

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「あんた、来るなら来ると言ってくれればいいのに」
 達美が笑いかけた先は、全長2キロメートルはある真っ赤なスポーツカーそっくりの宇宙船、に変身した女神ボルケーナ。
「あなた達、このまま帰るんでしょ? だったら、知らせる必要は無いと思って。びっくりさせようと思ってね」
 今、ボルケーナの口は1キロ近く向こうにある。
 それなのに声はすぐ近くから、耳に心地よく響く。
 達美の目の前に、声を発するものがあった。
 それは、半透明に輝く燃える石。
 溶岩の形をした立体映像のようにも見える。
 ボルケーナの声や視線の概念を遠くへ送る能力だ。
 達美のまわりをぐるぐる回りながら、機械の体は痛んでいないか、チェックしてくれている。
「それほどでも~」
 達美が心底、興味なさそうに笑った。

 そんな二人の様子を、茫然と眺める人もいた。
 だが、ほとんどの人にとって、そんなことはどうでもいいことだ。
 一行は待つ人がいる空港に近づいていく。
 生徒会と各部部長は14人。迎えに来た家族が25人。
 合わせ39人を待つのは、ボルケーナカーの左側。
 日本車で言えば助手席に当たるスペース。
 そこのドアは、今はカーフェリーのそれより広いランプウェイ(斜路)となり、生徒とその家族を待っている。

 だがその家族の行列は、儀仗の一番前にいたドラゴンドレスに呼び止められた。
『お待ちください。ここから先は、二つ以上の種族が一緒でないと入れないことになってます』
 両手を広げて一行を止める2機。
「そうか! トルシーダ・ミスタだった」
 そう気づいたのはレイドリフト1号。
「何? それ」
 達美の質問に、1号は、武産に協力してもらうことで答えた。
「武産! 拡声器出して! 」
「うん! 」
 急ぐ武産の掌に、先ほどのゲートと同じような虹色のリングが現れた。
 それが空中にとどまりながら回転する。
 武産はそれを、ろくろを回して粘土の器を作るように加工し、円筒にした。
 もう一つ、同じ要領で今度は小さな円筒を作ると、二つの円筒を取り付けた。
 これは持ち手だ。
「はい」
「ありがとう」
 魔法の拡声器をもらった1号が、ボルケーナに向かおうとする人々に声をかけた。
「みなさん聴いてくださ~い。
 現在この空港内は、トルシーダ・ミスタというエリアになっています!
 ここでは違う種族でも、お互いに仲間になりえる存在だと示すため、違う種族の方と一緒になって楽しんでいただきます!
 困ったことが有ったら、セキュリティガードに聴いてください! 」
 そう言われても、地球人達は困ってしまった。
「なんだ! 家族の再会よりも優先することか!? 」
 おじいさんが叫ぶと、周りで賛同する声が上がる。
 はやる気持ちを皆おさえられないらしい。

「ペアになりそうなチェ連人達もいないよ。
 あなたはどうなの? 」
 達美が不満そうに武産に聴いてみた。
「わたしやボルケーナはスタッフだから。あなた達と組むのは……あれ? 」
 振り返ると、まだチェ連人達はコンボイから下りていなかった。
 その前ではドラゴンドレスから下りた応隆とPP社のスタッフが、車の中の人間と押し問答している。
「なんだか、もめてるみたい。行ってくるね。主催者だから! 」
 そう言って武産と1号は駆けだした。

「何? どうかしたの? 」
 ボルケーナに話しかけられ、達美は音センサーのレベルを上げた。
 装甲車には中にいながら外に命令を飛ばすスピーカーがある。
「「我々、チェ連政府は! この情報提供の不備に抗議する!
 この空港を利用するのが宇宙船ではなく、宇宙怪獣だったからだ! 」だって。
 なるほど、幼子のいたずら心が、思わぬ書類上の不備をもたらしたわけね」
 達美は人の声真似がうまい。
 聞いた声をそのまま出力しているのだから当然だ。
「謝らなきゃだめですか? 」
 いつも気が強いボルケーナも、こういう時は気弱だ。
「そうね。行ってらっしゃい」
 と言っても、全長2キロメートルの体がそのまま動くわけではない。
 顔、車の前部だけがゴム細工のように曲がり、その両目がコンボイを見つめる。
 そしてマジックボイスの燃える炎がコンボイへ向かって飛んで行った。
 その時、達美の横で「ふん。臆病者のチェ連兵め」とつぶやく声があった。
 言ったのは、おなかの大きな女性。

 ボルケーナの船体内部には、素晴らしい光景が待っている。
 壁布が白地に金の錦織。テーブルにも同じ色遣いの彫刻が施され、その上には大きな皿が並んでいた。
 中身は帰還パーティーのごちそう。
 その周りにいるのは生徒会の留守番組だ。
 全部で27人いる。
 留守番組の中に、車椅子に乗る人影がある。
 あの亜麻色のショートボブは、城戸 智慧だ。
 今まで外と内との連絡を取り持ってくれた、最高のテレパシスト。
 弟が書いた、元は横断幕だった{最高のお姉ちゃん}と書かれた大きな布を肩に巻きつけている。
 その手にはうまそうなショートケーキが……。
 おなかの大きな女性の隣には、やせた男性がいた。
 たぶん旦那さんだな。と達美は思った。
 顔はスバルに似ている。
「まさか、このまま飯抜きじゃないだろうな」
 達美には、旦那さんの懸念は痛いほどわかった。

 留守番組のまわりにも大勢の人がいる。
 フセン市に居残り、バックアップをしていた彼らの家族。
 慈善事業をやっており、こういう機会には必ず出席し、召喚した者にひとこと言ってやらねば気がすまないと考える活動家たち。
 職業は様々。芸能人、スポーツ選手。漫画家。SF作家。イラストレーター。
 それを支援する資産家もいる。
 その心配そうな視線が向かう先は。
「ママ―!! 」
 ユニの息子、クミの声は、もはや泣いていた。
 その肩を心配そうに捕まえる中年の日本人が、優しい声で説明している。
「クミ君。君のママは、あの車に乗っている人を迎えてからここに来るんだ。もうちょっと待ってようね」
 彼のまわりには、黒服の護衛が目立たぬように守っている。
 前藤 真志。
 内閣総理大臣である。

「あれ? あいつら、だれだろう? 」
 達美の目は、一度見た相手なら記憶し、次に会う時は瞬時に表示してくれる顔認識システムを持つ。
 それは、地球人とはかけ離れた人相を持つ異星人相手でも有効だ。
 トルシーダ・ミスタへの入場許可条件は、地球人とペアになる異種族。
 今ボルケーナの中から、物陰に隠れるようにこちらをうかがう異種族たちには見覚えがなかった。

 異種族は、3集団いた。
 どちらも地球人に近い姿。
 しかも仕立てのいいスーツを着ている。
 だが、体の一部が違う。
 そして共通して、おびえた表情をしている。

 ある種族には、背中に鳥のような形をした2枚の金属製の羽があった。
 体つきは男女ともに背が高く、がっちりしている。

 もう一つの種族の背中には、内側がほのかに赤く光る水晶のようなものがある。
 とがった結晶だ。ぶつけたら痛そう。
 彼らの髪に見えた物は、わかめそっくり。緑の布状で、腰まで伸びている。
 体つきは、全身丸みを帯びた、ぽっちゃり?