想像力
急いで窓辺に駆け寄ると、呼気で曇ったレンズの向こうに爆撃機の大群、なんてことはなく、いつもと変わらない日常の光景がある。
チッ、また誤報か、ファック。アタシはマスクをむしり取ると、速攻で二度寝をキメる体勢。
――本当に戦争なんか起こってるのかよ。まどろみながら思う。
「どうなんだろうね?」いつの間にか目の前に少年が立っていて、アタシに話しかけてくる。
「うわっ、誰だお前、っていうか何処から入ってきたんだよ」
「そんな事は何にも問題にならないよね」
「ここはアタシの家のアタシの部屋だぞ、問題に決まってんだろうが」
「ねえ?」
少年はアタシの発言を無視して続けた。
「どうにだってできるんだよ、どうにだって」
夢と現実の区別のついていない子供の相手をするのって疲れるんだよな。適当にあしらう。
「はあ?何言ってんだお前、じゃあこの戦争を終わらせて見せろよ」
「いいよ」少年は指をパチンと鳴らした。「はい終った」「は?」
少年にはふざけている素振りがいっさいない。アタシはテレビを付けるが、どの局も戦争についてなんてやっていなくて、本当の所がアタシにはわからない。
「お前マジに言ってんのか?」「うん」即答。
ひょっとしてちょっとコイツ頭がヤバいのか?アタシは少し気味が悪くなってくる。
「君にだって本当はできるんだよ。空を飛ぶことだってできる。死んで、次の瞬間に生き返ることだってできる。だってここはそういう世界なんだから。そういう風にできるんだから。」
「アタシが?」「君がだし、君じゃない」
「何言ってんだか全然わからねえよ。」
「そんなことをしたら全ておしまいだって思ってるからできないんだよ」
「アタシが?」「そうだし、そうじゃない」
アタシはいよいよ訳が分からなくなってくる。
わざとらしくため息をつくと少年から視線をそらし、時計に目をやる。7時44分。
「そんな事よりいいの?学校に遅刻しちゃうんじゃないの?」
「学校?遅刻?」
「そうだよ、君は学校に遅刻しそうな女子高生なんだよ。たった今そうなった」
ハハッ、そういうことな。今全部わかった、いや、わからされたのか?まあどっちでもいい。
「空でも飛ばねえと間に合わねえな」確認する方法なんてねえんだ。
こういうのだってありだってことなんだよな?アタシは遅刻なんてしたくねえし、ましてや落ちて怪我なんてしたりしたくねえんだよ、なあ?
「じゃあね」そうなんだよな?アタシは祈った。何に?もうわかるだろ。
窓を全開にすると、全力でそこから跳躍する。