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かんだこうじ
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novelistID. 56170
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桃太郎 ~芥川龍之介に捧ぐ~

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さて、悪い鬼を討ち殺した桃太郎とその仲間(ご存じ、犬、猿、雉)は、沢山の財宝を持ち帰り、目出度し目出度し。と行きたいところだったのですが、そうは問屋が卸さないのがこの世界でございます。
 現実は、桃太郎は鬼を倒した後、意気揚々と村へ戻って参りましたが、鬼を殺した事で、彼に殺人の容疑が掛けられてしまったのでございます。救世主となる筈が、警察に追われる身になってしまった桃太郎は、逃亡を図りました。警察は彼を全国指名手配として逮捕しようと躍起になったのですが、なかなか消息が掴めないでいました。遂には桃太郎に、懸賞金までもが掛けられる始末でありました。
 それでも、桃太郎は捕まりませんでした。彼は、お爺さんとお婆さんと暮らしていた家を出ると、兎にも角にも遠くへ逃げようと、有り余った体力を武器に山を一つ越え、二つ超え、どんどん行方をくらましました。そして、とうとう日本海に面したと或る村へ辿り着くと、自分の事を誰も知らないこの村を潜伏先と決め、顔を整形し、名前を“辰彦(たつひこ)”と偽り、堂々と暮らし始めたのでした。
 そして、その村での生活が十年目を迎えた時、辰彦、もとい桃太郎のもとに警察の捜査の手が及びました。(もとい桃太郎のもとにって、“も”が多いな!)とにかく、ようやく桃太郎の情報を仕入れた警察でしたが、寸前のところで取り逃がしてしまったのでした。その経緯(いきさつ)はこうでした。まず、桃太郎が働いていた村の旅館に刑事一人が電話をかけ、桃太郎に電話を取らせ、電話口に拘束すると、そこへ捜査員数人が一挙に押し入り、彼をお縄にかけると云うのが警察の計画でありました。が、当日、刑事がミスを犯してしまったのです。その日、計画通りに旅館に電話をかけると、桃太郎が電話を取りました。そこで刑事が落ち着いた口調で、「もしもし警察ですが、辰彦さんはお居ででしょうか?」と言いました。「警察ですが」と、言ってしまったのでございます。まぁ、アホです。凡ミスです。桃太郎は受話器を放り投げ、一目散に走り逃げました。桃太郎を取り押さえる為に旅館の外で隠れていた捜査員たちも、そんなミスで桃太郎が飛び出して来るとは予想していなかったので、後を追うのが一歩出遅れてしまったのです。
 まんまと逃げおおした桃太郎は、自分に警察の手が近づいていた事に気付き、その後は村を転々として、その度に整形手術により顔も変えていきました。勿論、その都度名前も変え、辰彦から辰雄(たつお)、茂雄(しげお)、茂信(しげのぶ)、信茂(のぶしげ)、たま、ポチと変わり、終いにはフランシスコに変わっていました。
 読者の皆さんは、それではあまりに不自然だと思われるかもしれませんが、大丈夫です。整形のおかげで、フランシスコっぽい顔でしたから。
 しかし、遂に桃太郎は時効寸前で捕まったのでした…おでん屋から出て来たところを。
 そして、裁判が始まりました。桃太郎が無罪を勝ち取る事は非常に難しいと思われていました。何たって、目撃者が大勢います。鬼ヶ島の島民たちです。島民と言っても、鬼でございます。が、それでも立派な目撃者には違いありません。又、物的証拠もかなりの数がありました。押収された桃太郎の刀からは、殺された鬼のDNAが検出され、討伐現場(裁判の中では、事件現場と呼ばれていた)には、数々の遺留品が残っていました。見つかった遺留品の大半は、鬼との熾烈を極めた争いの最中に落ちた桃太郎の装飾品でした。桃太郎は見栄えを気にするタイプだったので、やたらとアクセサリーやワンポイント・アイテムをジャラジャラと装備していた事が、仇となりました。又、村への帰還の際に「鬼を討って来たなり!」などと自慢げに大声で叫んでいたところも沢山の人に目撃されており、もはや桃太郎に逃げ道は無いと思われていました。
 ですが、裁判はなかなか決着が着きませんでした。と言うのも、検察側と弁護側の間で、“鬼が人かどうか”と云う論争が起こった為でした。
 結局長い論争の後、「鬼は人ではない」と云う弁護人の訴えが通りました。人ではないのだから、殺人にはなりません。桃太郎は助かった。と、お思いの読者もいるでしょうが、そうは問屋が卸しません(二回目)。何たって、動物愛護法が有るのですから。桃太郎は鬼を死に至らしめたと云う事で動物愛護法違反、プラス窃盗罪も加わり、懲役五年の実刑判決が言い渡されました。
 さて、この裁判は日本国中の注目の的でございました。それ故、判決確定後に桃太郎を育てたお爺とお婆には、それはもう冷たい待遇が待っておりました。外を歩けば、道行く人に「殺人鬼の親」となじられ、家の壁には「この村から出て行け」などと落書きをされる始末でございました。その為、遂にお爺が精神を病んでしまい、アルツハイマー病を発症してしまいました。お婆は何とかお爺の介護をしつつ、度々桃太郎のもとへ面会に行っていたのですが、やはりその度に人々から白い目で見られ、すれ違いざまに陰口を叩かれ、散々な目に遭わなければなりませんでした。耐え切れなくなったお婆は遂に意を固めて、或る夜、お爺を縄で絞め殺すと、その縄を天井の梁へ結び、自分も首を括ったのでございました。
 読者の皆さんには、聞きたくもない裏話でしたネ。でも、皆さんが生きているこの世の中には、知らなきゃ良かったと思える闇の部分がまだまだ存在しているのですよ。The Dark Side of the Moonとはよく言ったものです。通信技術の発達により、何でもかんでもすぐに調べようとする皆さんへ、知識を得ようと学ぶ姿勢は大変素晴らしいと思いますが、どうぞ足を踏み入れすぎないようにお気を付け下さいませ。
 あっ、言い忘れておりました。犬、猿、雉がどうなったのか気になっている方もございましょう。彼らは鬼を殺した後、犬は犬界で、猿は猿界で、雉は鳥界で、「あの鬼を倒すとは、なんと凄い者か!」と称賛されて、生涯その偉業を讃えられながら、天寿を全うしました。桃太郎の待遇とは天と地の差があって、不本意にお思いになられる方もございましょう。が、これは仕方が無いのでございます。何たって彼ら動物に、人間の法律、道徳が通用するわけ無いのですから。