サヨナラ、ヴィーナス。
サンセットノイズ
「あの、落としましたよ。」
「ありがとうございます。」
いきなり強い風が吹いたせいで
被っていた麦わら帽子がふわりと道路に落ちた。
気付けば夏休みに入っていた。
遠くで聞こえる蝉の鳴き声が
愛おしく感じた。
私は、自分自身の事情を話そうと思い始めていた。
特に大それた理由はない。
あるとしたら、それはあなたへ対する背徳感だけだろう。
そんな時、彼から連絡が入った。
[これで最後にするから。]
そう書かれたメールの続きには
待ち合わせ場所と時間、日付だけが記されていた。
「本当の最後。」
小さく呟いた。
誰にも聞こえない大きさで。
白い柔らかなリネンのワンピースを風になびかせ
私は待ち合わせ場所へと急いだ。
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「..待った?ごめんね、電車がなかなか動かなくて。」
いつぶりかに見た、馴染みのある顔。
「少しだけね。でも来てくれた、それだけで十分だよ。」
いつぶりかに聞いた、少し寂しそうな声。
僕とキミは、数ヶ月ぶりに顔を合わせた。
作品名:サヨナラ、ヴィーナス。 作家名:melco.