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やさしいかいぶつ

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いかにもどうぞと言わんばかりの低姿勢で私に先を譲り、しおらしい態度で私の後ろをついてくる。私はいつどんな敵意がむけられるかもわからずに、席を選ぶ。空席の間隔、知っている人、仲のいい人、知らない人。それぞれに苦痛なく一番よい場所を選ばなくてはならない。そして、私は選んだ場所で一番下の場所を自ら選ばなければ、わがままな人と化すのである。

 いかにも女の子らしく、笑顔の素敵な彼女はみんなから好かれ、よくお菓子のおすそわけをもらう。そして嬉しそうにはにかむのだ。

「ありがとうございます。」

と綺麗に澄んだ瞳を細めて、つやつやした肌にえくぼをつくり、微笑むのだ。私だってその笑顔を向けて欲しいと思う。一緒にご飯を食べているとその子はそういうときに、どういう反応をしたらいいかわからないといった。

「違う課の人からの贈り物をもらうんだけど、なんでもらうのかわからなくって…」

私が

「ミキにあげたいんだよ、私のとこの補佐もミキすきだもん。」

 と言うと、彼女は罰の悪そうな表情をした。途端、私の立場は悪くなり、なんだか私が嫉妬をして八つ当たりをしたかのような感覚に陥ってしまった。私は彼女をほめるつもりで言ったにも関わらず、だ。

 嫉妬がないわけではない。ずるいなあ、と思う。
 この問いの正解はきっと、なぜ、お菓子をもってくるかではなく、求められていたのは同意である。そんなことされたことがなくても「それは困るね」とおかしそうに笑うことだ。
 ただし、客観的に見れば崩れた顔で行うこととなる。彼女は清らかだからきっと友人の私をそんな風には見ていない。だから、その回答を求めるのが彼女のなかの自然である。私の心を蝕むのは、そんな彼女のやさしさだ。

 彼女は人に優しくされることが多い。でも、彼女は私にないかわいさを持っているし、それが当然であることはわかっている。ただ、好かれているならば敵意なぞ向けられることはないのだから前に立ってほしいと思う。私が友人として彼女をそこまで守る必要はないと思う。どれだけ守られて育ってきたか知らないが、勘弁してほしい。そして、私が前を譲ろうといくら立ち振る舞っても、頑なに前を譲る。そう、譲っている。

 ちくしょう。
作品名:やさしいかいぶつ 作家名:中野 裕