ダイソーの腕章
今日、俺は、この工場に、単独で潜入し、証拠の画像を撮影し、首根っこを押さえる気だ。
そんな事ができるのかって? 大丈夫だ。俺は、巨費を投じて秘密兵器を手に入れた。
商品番号G-073、透明ポケット付腕章、黄、108円(税込)。ダイソーで手に入れた。まったく、手痛い出費だったぜ。
こいつは、ただの黄色い腕章じゃあ、ない。透明なポケットが付いていて、そこに好きな紙が挟める。
だから、「団長」と書いた紙を入れれば「団長」の腕章になるし、「STAFF」と書いた紙を入れれば、「STAFF」の腕章になる。
俺は、腕章に「見学者」の紙を入れ、建物に潜入した。キョロキョロと見回すが、見学者なのだから当然だ。不自然ではない。む、奥へと続くドアを発見したぞ。
「ちょっと、待て!」
と、鋭い声で呼び止められた。
俺は、あくまで自然な感じで腕章をアピールしつつ、振り返った。
「あっ、失礼。見学の方ですか。……しかし、見学の方は、そちらはご遠慮願います」
そう言われては、仕方がない。ここは一時引こう。
私は、物陰に入ると、腕章の中身を、「STAFF」の紙に入れ替えた。
再び、先ほどのドアに向かう。もちろん、腕章をアピールしながら。
誰も、とがめる者はいなかった。ふっ、当然だ。
ドアを抜けると、そこは、目を覆わんばかりの光景が広がっていた。
くそっ、奴ら、本当に、人か?
奴らは、人魚を泣かせるために、ひたすら、人魚に玉ねぎをみじん切りさせていた。
そうか、奴らが、真珠の他にレトルトカレーも売っていたのは、そういうからくりだったのか。
俺は、腕章の中身を「撮影許可」の紙に入れ替えると、カメラを取り出し撮影を始めた。
よし、これくらいでいいだろう。
そう思ったその時、
「おいっ、そこで、何をしている!」
鋭い声をかけられた。
大丈夫だ。慌てることはない。
「撮影許可なら、取っています」
と、腕章を見せる。
「何だと? あぁっ! よく見りゃ、お前さっきの見学者じゃないか!」
まずい! さっきの奴だ!
「ちょっと、こっちに来い!」
ええぃ! ままよ!
俺は、腕章の「撮影許可」の紙を引き抜いた。
「さ、『殺人許可』?」
奴がビビッて後ずさる。
そう、こんなこともあろうかと、「撮影許可」の紙の下に「殺人許可」の紙を仕込んでおいたのだ。
「ということは、お前は俺を殺しても罪にならないのか?」
「さぁ、どうかな?」
ここで、走り出すのは、素人のすること。俺は、「殺人許可」の腕章をチラつかせながら、悠々と工場を後にした。