はじまりの旅
悲惨な状態だが、目の前の男は生きていた。焦げた匂いの中に感じた嫌な臭いはこの匂いだった。
クグレックは自分の荷物の中に水はないか探したが、鞄の中身は全て焼け焦げており、水は入っていなかった。
クグレックは震える声で「ごめんなさい、水は、今ないの」と言った。
ソーラーパネルの下には、辛うじて生き延びている研究員の姿が多数あった。皆悲惨な状態で、うめき声を上げている。
クグレックは後ずさりをし、この場から離れようとした。が、クグレックは何かにぶつかった。
振り向くと、そこにはトリコ王ディレィッシュがいた。
彼はクグレックと同様に、何の外傷もなく綺麗なままだった。無表情でクグレックを見下ろしている。
「ディレィッシュ…!一体何が起きたの?」
「高エネルギー発生装置が誤作動を起こし、爆発した。」
「爆発…!」
ディレィッシュはにこりと微笑んだ。
「実験には失敗もつきものだからね。…最高の技術の結晶がこれから出来上がるんだ。多少の犠牲は仕方がない。」
クグレックは思わずディレィッシュから離れた。狂っている。
「どうした、クグレック。真の完成にはお前の力が必要なんだ。全てを私の支配下に置いて、世界の理を手に入れようではないか。」
微笑みながら、ディレィッシュはクグレックに向かって手を差し出す。しかし、クグレックは小さく首を横に振り、一歩、また一歩とディレィッシュから後ずさる。
「魔女クグレック、お前はそのためにこのトリコ王国に呼ばれたのだ。さぁ、一緒に行こう。」
にじり寄って来るディレイッシュに、クグレックは後ずさりをするが、足をもつれさせて、尻餅を着いて転んでしまった。
近付いて来るディレィッシュに恐怖を覚えたクグレックは体が震えて立ち上がることも出来ない。
ディレィッシュの背後に何か黒い靄が見えるのだ。その靄は禍々しく忌々しいオーラを発して、ディレィッシュに取り憑いているようだった。
「イヤ!やだ!来ないで!」
照りつく太陽が浮かぶ青空に、クグレックの叫び声が響いた。
そして、同時に彼女は気付いた。
――あぁ、これは悪夢だ。だって、研究所にはいつもニタと一緒に行っていたのに、ニタがいない。ニタがいない世界は単なる夢に過ぎない。目を覚まさなきゃ。