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はじまりの旅

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 ピアノ商会から近いところに、二人は宿屋を取った。朝食と夕食がついてなかなかのお値段だったが、二人はこれまで野宿を取ったり、ポルカではニルヴァ防衛の功績が称えられて宿泊費、食事代がタダになったりしていたので、お金に関しては余裕があった。
 夕食に関しては、ポルカの食事の方が美味しかったが、野宿でニタが調達してくる野性味あふれる食事よりは全然美味しかった。

 翌日、二人はピアノ商会へ向かった。
 ニタはこのまま突入しようと提案したが、クグレックが必死に危険性を説得して、突入することだけは避けることが出来た。
 その代わり、ピアノ商会の向かいにあるカフェのテラス席で、様子を伺うこととなった。暦の上では既に冬となり、ドルセード程ではないが肌寒い。メイトーから受け取った荷物の中には薄手のケープが入っていたので、二人はそれを着て張り込みを行った。
 のんきにパンケーキを頬張りながら、ピアノ商会を見張る二人。
 午前中は全く人の出入りはなかったが、正午を過ぎてから、人が出入りするようになった。そして、日が大分傾いてきたころ、ニタ達が探し求める人物がピアノ商会から出て来た。金髪のオールバックで服装は何の変哲もないアッチェレの男性の服装の一人の男性。
「マシアスだ!」
「きっと別人だよ。」
 そもそもポルカで出会ったマシアスは、砂漠の国の民の衣装を身に纏っており、露出が異常に少なかった。頭はターバンで覆われて、髪の色も分からなかったし、顔も山賊退治の時は布で隠されていたので、表情も良く分からなかった。クグレックとニタの中に残るマシアスの印象は冷たい水色の瞳だったが、それだけでは個人を特定するのは難しい。
 マシアスと思しき人物がどこへ行くのか、と二人は見張る。彼は道路を横断し、こちらに向かってくる。二人は表情を強張らせた。
 マシアスの影がニタとクグレックに重なる。
「何をしてるんだ。お前たち。」
 まさに声もマシアスそのものだった。
 逆光で表情は良く分からないが、水色の瞳が二人を見下ろす。
「やっぱり、お前はマシアス!」
 ニタが指を指して叫んだ。マシアスは少し焦った様子でニタの口を自分の手で押さえつけた。
「騒ぐな。静かにしろ。」
 ニタは口をふさがれてもなお、何かしら喚いてる。
「一体、どうしてこんなところにいるんですか?」
 ニタがもごもご言っているのを無視してクグレックが尋ねる。マシアスは口を押えられて暴れるニタをいなしながら、
「その言葉、そっくりそのまま返したいよ。お前たちのせいで、ちょっと困った状態にあるんだ。悪いようにはしないから、ちょっと来てくれないか?」
と、答えた。
「来てくれないか、って、どこへ?」
 クグレックの問いに、マシアスはちらりとピアノ商会に顔を向ける。そして、すぐにニタをいなす。
「…それって、どういうことですか?」
「詳しいことは、後で。とにかく、お前たちの安全だけは絶対に約束するから。」
 そう言いながら、マシアスはニタの首根っこに手刀を入れると、ニタは一瞬にしてぐったりと大人しくなった。
 クグレックはびっくりして口に手を当て、悲鳴が出そうになるのを我慢した。そんなクグレックがびっくりしている間に、マシアスはカフェの会計を済ませ、右手でニタを担いでピアノ商会に向かう。
 クグレックは、魔法で応戦しようと杖を取ろうとしたが、その手は宙を掴んだ。きょろきょろと辺りを見回すと、目の前のマシアスの左手にはクグレックの杖が握られていた。あの樫の杖はクグレックの祖母から譲り受けた形見でもある。
 クグレックが顔を真っ青にして立ち尽くしていると、マシアスは振り返り、
「だから、悪いようにはしない。お前のお友達を連れて行かれたくないのならば、ついて来い。」
と言って、左手の杖を掲げた。
(何が悪いようにしない、だ。ニタをあんな目に遭わせた挙句、私の杖を奪うなんて!確かにマシアスはニタの言う通り希少種ハンターの仲間だった!)
 とクグレックは心の中で怒るのだが、ニタと形見の杖を人質に取られては何もできない。クグレックはマシアスの背中を睨み付けながら、後を着いて行った。

作品名:はじまりの旅 作家名:藍澤 昴